報告と根拠
資産評価レポート(未来明るく電力・領域A〜D)
公開
プロジェクト名: 未来明るく電力 基幹システム 資産評価 PoC(古い資産の死活棚卸し) 対象: 領域A(料金・顧客情報 CIS)/領域B(送配電設備管理)/領域C(需給運用・給電)/領域D(電力取引・託送)/共通基盤 評価時点: 2026年7月4日(資産評価PoC)/証拠期間: 2026年4〜5月の実行ログ 作成: dele
目次
本レポートの読み方
本文に入る前に、この調査で何をしたのか、どの範囲を見たのか、判定の書き方が何を意味するのかを説明します。ここを読んでおくと、本文の数字や判断がどこから来たのかが分かります。
本調査(PoC)で行ったこと
本調査は、本格的なシステム刷新に着手する前に行った実証調査(PoC: Proof of Concept)です。deleが行ったのは次の3つです。
- 未来明るく電力の基幹システムから、ソースコード一式・依存関係の手がかり(ソース/バッチ定義)・2026年4〜5月の実行ログ・機能仕様書をお預かりしました
- それらを手がかりに、dele社内に本番へ触れない複製環境を用意し、提供されなかった情報はAIで依存グラフ上に復元・補完しました
- その複製環境の上で、何が動いていて、何が休眠し、何が死んでいると推定されるかを、プログラム1本ずつ証拠に基づいて採点しました
本レポートの数字は、聞き取りの集計や机上の想定ではありません。実物のコードと実行ログを突き合わせて確かめた観測値と、それに基づく推定です。
「推定」と書いている理由
本レポートおよび本サイトのプログラムの死活の判定(現役・休眠・死亡)は、すべて 2026年7月4日時点の推定 です。そのため「推定現役 / 推定休眠 / 推定死亡」と書きます。この書き方には次の理由があります。
- 判定の根拠は、ご提供いただいた資料(ソースコード・依存の痕跡・2026年4〜5月の実行ログ・機能仕様書)の範囲内の証拠です。実際の本番環境で動いていることを確認したわけではありません
- 例えば「直近2ヶ月の実行ログに登場しない」ことは休眠の強い証拠です。ただし、年次処理・制度改正時のみ動く処理・災害時にしか起動しない縮退運用系が観測期間の外で動いた可能性は排除できません
- とりわけ電力事業には、年1回の料金改定バッチ・容量市場の年間約定処理・数年に一度の制度対応処理のように、動く回数は極端に少ないのに止めてはいけないプログラムがあります。これらを機械的に休眠・死亡とは判定しません
今後は、(1) 実行ログの継続観測と (2) 現場確認(段階的停止と影響観察) の2つで、この推定を確証に近づけていきます(第6章 次フェーズ計画を参照)。判定が更新された場合は、本サイトのプログラム別分析にも反映します。現場・ログで確認された事実は、推定判定を書き換えず「現場確認」として重ねて表示します。
最小限の用語
本文は、この8語さえ分かれば読み通せます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| ソースコード(ソース) | 人間が読み書きできる、プログラムの「設計図」。処理の中身が文章として書かれている |
| プログラム(本) | 1つの処理単位。COBOLやVB6のソース1本、または呼び出し関係にのみ名前が登場する実体を、それぞれ1本と数える |
| 依存グラフ | 「プログラムAがBを呼ぶ」「CがテーブルDを読み書きする」というつながりを、点(ノード)と線(エッジ)で表した全体地図 |
| 死活採点 | プログラム1本ごとに5つの証拠を100点満点で採点し、推定現役/推定休眠/推定死亡に分類する手続き |
| 非稼働率 | 採点対象のうち、推定休眠と推定死亡が占める割合。「削減・整理の余地」の目安 |
| EOL(End of Life) | OS・言語・ミドルウェアのサポート終了。パッチ・障害対応が受けられなくなる期限 |
| インバランス | 計画値と実需給の差。精算(IB)を誤ると託送・市場取引に直結する電力事業特有の勘定 |
| 機能仕様書 | プログラムの設計意図を記した文書。維持されていれば移行時の確認がソース読解に依存しなくて済む |
数字の読み方
本レポートには「プログラム数」が、数え方の違いで複数出てきます。混同を避けるため、初めて出てくる箇所で必ず数え方を書いています。
- 依存グラフ 596本: 呼び出し関係に名前が登場する実体の総数。うちソース提供 397本(66.6%)、呼び出し痕跡から復元 199本(33.4%)
- 死活採点 397本: 実物のソースが提供され、5証拠で採点できた本数。復元199本は「存在・つながり・役割の推定」までにとどまるため、採点対象から除く
以降、単に「採点」と言うときは397本を指します。
経営層向けの要点
古いシステムをどうするかは、情報システム部門だけの技術課題ではありません。発送電分離・制度改正・災害への備えが同時に進むいま、事業を続けるためと、制度改正に早く対応するために、経営が判断すべき課題です。
まず、いまの状態を正確に示します。
本レポートの結論(先に要点)
止められない領域(需給運用・給電)は、ほぼ全部が現役でした。 一方で、古い請求系(料金CIS)と、使われないまま保守費だけ払っている共通基盤に、全体の約1/3の削減余地があります。ここから安全に止めていきます。
いますぐ全系統が止まる兆候はありません。ただし、資産の状態には領域ごとの偏りがあり、放置すべきではない領域がはっきり見えています。
確定した数字
今回の資産評価PoCで観測・採点した値は次のとおりです(2026年7月4日時点の推定)。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 依存グラフ(実体総数) | 596本(ソース提供 397本=66.6% / 呼び出し痕跡から復元 199本=33.4%) |
| 依存エッジ | 389本 |
| 死活採点 | 397本(推定現役 269 / 推定休眠 82 / 推定死亡 46) |
| 全社の推定非稼働率 | 32.2%(採点397本中、推定休眠82+推定死亡46=128本が稼働の証跡なし) |
| 機能仕様書 | 246点 |
採点した397本のうち、3本に1本弱で動いている証跡を確認できませんでした。これが「約1/3の削減余地」という言い方の裏付けです。ただし内訳は領域によって大きく異なります(第5章)。削減余地は請求系と共通基盤に偏っています。
古いシステムを放置したときの5つの経営リスク
古いシステムを放置したときのリスクは、「システムが古くて動かなくなる」というIT部門の問題にとどまりません。次の5つが、事業の継続と制度改正への対応を確実に難しくします。
| # | 経営リスク | 電力事業における具体的な影響 |
|---|---|---|
| 1 | IT維持コストの高止まり | メインフレーム請求系(COBOL/JCL)のランタイム・ミドルウェアが相次いでEOLを迎え、延長サポート費が固定費になる。収益に見合わない支出が積み上がる |
| 2 | 人材が保守に固定される | 次世代検針(スマートメーター/HES・MDMS)、容量市場・需給調整市場対応、災害への備えに向けるべき人材が、一部の古いシステムの保守に取られ続けている |
| 3 | 技術者不足による対応不能リスク | 料金計算(RY)・収納(SU)の中核はCOBOL資産。読み書きできる要員が高齢化・退職で市場から減っている。担当者が異動すると、誰も中身が分からない状態になる |
| 4 | 制度改正に素早く対応できない | 依存関係が見えず影響範囲の調査に時間がかかり、料金改定・インバランス制度・スイッチング(小売切替)等の制度改正対応が遅れる。「やりきれない」が常態になる |
| 5 | データが分散し、実態が見えない | どれが本番で動いている版か分からず、仕様書も欠け、依存関係も見えない。実態が見えないため、経営がどこから手を付けるべきか判断できない |
問題は、保守に人や費用をかけること自体ではありません。**限られた人と予算が、本来注力すべき制度対応・災害への備え・DXではなく、一部の古いシステムの維持に固定されています。**これが経営課題の中身です。
どこが生きていて、どこに余地があるか
今回の採点を領域別に見ると、未来明るく電力の資産は2つにはっきり分かれます。
- 止められない領域は健全です: 需給運用・給電(領域C)の推定非稼働率は**1.9%**です。24時間365日の系統運用・給電指令を担う、一時も止められない領域です。ほぼ全プログラムが現役で、使われていないものがほとんどありません。ここは守って強くする対象で、減らす対象ではありません
- 請求系と基盤に余地が偏っています: 料金・顧客情報(領域A CIS)は41.6%、共通基盤は**42.5%**が非稼働です。制度改正のたびに得意分野別・料金メニュー別にプログラムを増やしてきた結果、使われなくなった資産が誰も止めないまま残っています
止められない領域(需給・給電)は、ほぼ全部が現役です。一方、古い請求系と、使われないまま残っている共通基盤に、全体の約1/3の削減余地があります。ここから安全に止めていきます。
本レポートの流れ
- 直ちに全系統が壊れる兆候はありません
- しかし、資産の状態には領域ごとの偏りがあります
- 需給・給電(C)は健全です。請求系(A)と共通基盤に、使われていない資産が集まっています
- その結果、維持コストが下がらず、人材が保守に固定され、制度対応が遅れています
- 採点397本のうち128本(約1/3)で、動いている証跡を確認できませんでした
- とりわけ推定死亡46本は根拠が明確で、安全に廃止へ着手できます
- deleは、本番に触れない複製環境とAI解析で、これを短期間で可視化しました
- 次フェーズでは他領域(発電・ERP等)へ広げ、段階的停止と影響観察で安全に整理していきます
本レポートの構成
| 章 | 問い | 答えの所在 |
|---|---|---|
| 第1章 | どこまでを、どの粒度で見たのか | 調査の対象範囲 |
| 第2章 | どうやって本番に触れずに棚卸ししたのか | 調査手法 |
| 第3章 | 「生きている/死んでいる」を何で判定したのか | 採点ロジック |
| 第4章 | 全体としてどうだったか | 結果・死活内訳 |
| 第5章 | どの領域に余地があるのか | 領域別の評価 |
| 第6章 | では経営として何をするか | 提言と次フェーズ |
1. 調査の対象範囲
本章の問い: 今回の資産評価は、未来明るく電力のどの範囲を、どの粒度で見たのか。
対象とした4領域+共通基盤
未来明るく電力の基幹システムのうち、今回は業務の中核である次の4領域と全社共通基盤を対象にしました。発電設備制御・ERP(会計/人事/資材)・情報系(BI/データ基盤)は今回の対象外とし、次フェーズ(全社スクリーニング)で扱います。
| 領域 | 名称 | 主なサブシステム(コード) |
|---|---|---|
| A | 料金・顧客情報(CIS) | 検針管理(KN)、料金計算(RY)、収納・消込(SU)、契約管理(KY)、顧客対応CRM(CS) |
| B | 送配電設備管理 | 設備台帳(SB)、工事管理(KJ)、保全計画(HZ)、図面・GIS(GS)、停電管理(TD) |
| C | 需給運用・給電 | 需給計画(JK)、給電指令(KD)、系統運用(KT)、予備力管理(YB) |
| D | 電力取引・託送 | 卸電力取引JEPX(TR)、インバランス精算(IB)、託送業務(TS)、スイッチング(SW)、需要予測(YS) |
| 共通 | 全社基盤 | マスタ管理(MS)、帳票基盤(CH)、連携基盤ESB(RN)、認証・権限(NB)、バッチ基盤(BT) |
各領域が扱う代表的なデータ(テーブル)は次のとおりです。
| 領域 | 代表テーブル | 業務上の意味 |
|---|---|---|
| A | KENSHIN(検針実績)、KEIYAKU(契約マスタ)、RYOKIN(料金計算結果)、NYUKIN(入金明細) | 検針→料金確定→請求→収納の一連 |
| B | SETSUBI(設備台帳)、KOUJI(工事管理)、TEIDEN(停電実績) | 設備の資産・工事・停電の記録 |
| C | JUKYU(需給計画)、KYUDEN(給電指令log) | 需給バランスと給電指令の実行記録 |
| D | TORIHIKI(取引約定)、IMBALANCE(インバランス)、TAKUSO(託送料金) | 卸取引・インバランス精算・託送 |
調査の粒度(依存グラフ596本)
今回つくった全体地図(依存グラフ)は、呼び出し関係に名前が登場する実体596本で構成されています。
| 区分 | 本数 | 割合 | 内容 |
|---|---|---|---|
| ソース提供 | 397本 | 66.6% | 実物のソースコードが提供され、中身まで解析・採点できた |
| 呼び出し痕跡から復元 | 199本 | 33.4% | 呼び出し命令やバッチ定義に名前は登場するが、実物のソースが見つからない。存在・つながり・役割を推定して地図上に補完した |
| 合計 | 596本 | 100% | 依存エッジ 389本 |
- 採点(死活推定)は、実物のあるソース提供397本を対象にしました。復元199本は中身を確認できないため、「存在する / どことつながっている / どんな役割か」の推定までにとどめ、死活採点からは外しています
- 依存エッジ389本は、プログラム間の呼び出しと、プログラムとテーブルの間の読み書きを合わせた総数です
復元199本(全体の1/3)が意味すること
呼び出しの記述に名前が載っているのに、実物が見つかりません。本番で参照されているのに正本のソースがどこにあるか誰も把握していない資産が、3本に1本あるということです。制度改正で急ぎ改修が必要になったとき、まずソース探しから始めることになります。正本を一元管理する仕組みがないことが、制度改正への対応を直接遅くしています。
今回の対象外(次フェーズで扱う)
次の4つは今回の対象外です。全社スクリーニング(第2クール)で、同じ手法を広げて評価します。
| 対象外 | 理由・次フェーズでの扱い |
|---|---|
| 発電設備制御(DCS/SCADA等) | 制御系はネットワーク・可用性の要件が異なるため別に評価する。基幹系との連携点(需給計画への実績取込)のみ今回把握 |
| ERP(会計・人事・資材) | パッケージ主体で棚卸しの手法が異なる。連携基盤(RN)経由の接点は共通基盤側で把握済み |
| 情報系(BI・データ基盤) | 基幹系のデータを二次利用する下流。基幹の整理後に評価する方が効率的 |
| 次世代検針基盤(HES/MDMS)の内部 | スマートメーターのデータ収集基盤は比較的新しく、古い資産の棚卸しとしては優先度が低い。検針管理(KN)との連携点のみ今回把握 |
なぜこの範囲から始めたか
領域A〜Dは、発送電分離後の未来明るく電力の送配電・小売・取引を支える中核です。同時に、メインフレーム時代(COBOL/JCL)からクライアントサーバー時代(VB6/.NET)までの古い資産が積み重なっている領域でもあります。ここを起点に選ぶと、(1)最も古い資産が多い請求系の実態を把握でき、(2)止められない給電系が本当に健全かを確認でき、(3)確立した手法をそのまま全社へ広げられます。いちばん見えていない中核を、証拠つきで見えるようにする。これが対象を選んだ理由です。
技術構成の実態(古い技術が積み重なっている)
今回対象とした資産の技術構成は、未来明るく電力が制度改正のたびに増改築を重ねてきた歴史をそのまま映しています。世代の異なる技術が積み重なり、それぞれに別のリスクがあります。
| 世代 | 主な技術 | 主に担う領域 | 抱えるリスク |
|---|---|---|---|
| メインフレーム時代(1990年代〜) | COBOL / JCL / PL/SQL | 料金計算(RY)・収納(SU)などの請求系(A)、月次バッチ | 読み書きできる要員の高齢化・退職。ミドルウェア・ランタイムのEOL |
| クライアントサーバー時代(2000年代〜) | VB6 / VB6 Form / VB.NET / C# | 検針(KN)・契約(KY)・CRM(CS)、設備台帳(SB)・工事(KJ)(B) | VB6 IDE/ランタイムの保守性、サードパーティ部品の入手性 |
| Web/市場対応時代(自由化以降) | Java / 一部.NET | 電力取引(TR)・託送(TS)・スイッチング(SW)(D) | 比較的新しいが、旧制度対応の残置が混在 |
| 横断 | Shell / Windows Batch / SQL Script | バッチ基盤(BT)、領域間連携 | 実行契機・ジョブ依存がスクリプトに埋もれ可視性が低い |
先送りされている3つの問題
(1) COBOL要員が減っている: 料金計算・収納の中核はCOBOL資産です。読み書きできる要員が市場から減っていて、料金改定や制度対応のたびに対応できないリスクが高まります。 (2) ミドルウェア/ランタイムのEOL: 世代の古い実行基盤が相次いでサポート終了を迎え、延長サポート費が固定費になります。 (3) 制度改正への対応が遅れる: 発送電分離・容量市場・需給調整市場・インバランス制度・スイッチングなど、制度改正は今後も続きます。依存関係が見えないままでは、そのたびに影響調査で時間を失います。 これらは今すぐ壊れる問題ではないので先送りされやすく、先送りするほど対応コストが膨らみます。
なお、言語別のコード規模や世代別の分布は、全社スクリーニング(第2クール)で全領域を横断集計してから数字にします。本PoCで確かめたかったのは量ではなく、どれが生きているか(死活)です。
2. 調査手法(本番に触れずに棚卸しする)
本章の問い: 稼働中の基幹システムに一切触れず・止めずに、どうやって「何が生きているか」を確かめたのか。
deleが行ったのは、数十年分積み上がって中身が分からなくなったシステムを、本番に触れずに解析し、中身を一覧にすることです。手順は次の3つです。
Step 1: 本番に触れない複製環境を用意する
提供いただいたソースと依存の手がかりだけを頼りに、本番と同じ構造のデータベースと実行環境を、dele社内に組み直しました。
- 本番の運用に影響が出ないよう、dele側に隔離した複製環境を用意しました。ここでなら、このプログラムを止めたらどうなるかを、業務に影響を出さずに何度でも試せます
- 電力の基幹系は24時間365日の給電・検針・託送を止められません。だからこそ本番に触れないことが絶対の条件で、複製環境がその土台になります
図面が一部欠けた数十年物の設備を、残っている図面と部品だけを手がかりに別の場所へ組み上げ、動く状態にしたということです。
Step 2: 欠けた設計図を、AIで依存グラフ上に復元する
提供資産だけでは、全体像は見えませんでした。
ここで疑問が出ます。対応するソースが提供されていないのに、なぜ「ある」と分かるのでしょうか。 理由は、プログラムが互いに名前で呼び合っているからです。提供されたソースやバッチ定義には「次に◯◯を実行せよ」「△△を呼び出せ」という命令が無数に書かれています。この呼び出される側の名前をAIですべて拾い集めた結果、重複を除いて596本のプログラム名が地図上に現れました。ところが、その名前に対応するソースが提供資産の中に見つかったのは397本(66.6%)だけでした。残る199本(33.4%)は、呼び出し命令に名前は載っているが、対応ソースは今回未提供という状態です。顧客環境に正本が存在しないという意味ではありません。
ここでAIを使いました。
- 提供された全ソースをAIに読み込ませ、「このプログラムは何を読み、何を計算し、どこに書き込むのか」を1本ずつ復元しました
- 対応ソースが未提供の199本は、呼び出し元の記述・バッチの実行順序・DBアクセスの痕跡を手がかりに、AIが役割とつながりを推定して依存グラフ上に補いました
- COBOLが参照する共通部品(コピーブック)やDBテーブルの構造も、コード中の定義文・SQL文から組み直しました
人手なら熟練の技術者が年単位を要する読解・復元を、短期間で終えました。COBOLとVB6を読める要員が減っている電力業界では、AIが読解を代わりに行うことが、この手法の要点です。
Step 3: 実行ログと突き合わせ、5つの証拠で採点する
再現した依存グラフと、2026年4〜5月の実行ログを突き合わせ、全プログラム・全テーブルのつながり(エッジ389本)を図にしました。担当者への聞き取りではなく、実物を全件調べた結果です。
そのうえで、ソース提供397本を1本ずつ5つの証拠で100点満点採点し、点数で推定現役/推定休眠/推定死亡の3つに分けました。判定は感覚ではなく、証拠に基づく点数です(採点ロジックの詳細は第3章)。
一般的な調査手法との違い
| 観点 | 一般的な調査(ヒアリング中心) | dele(実物と実行ログで解析) |
|---|---|---|
| 情報源 | 担当者の記憶・既存ドキュメント | 実ソース・実行ログそのもの |
| 仕様書がない場合 | 「不明」のまま残る | AIがコードを読んで役割を復元する |
| 「使っていない」の根拠 | 「たぶん使っていないと思う」(証言) | 実行ログに登場しないことを確認(証拠) |
| 依存関係の把握 | 主要連携のみ・人の記憶頼み | 596本・389エッジを機械的に抽出・可視化 |
| 成果の性質 | 報告書(読んで終わり) | 複製環境・依存グラフ・採点の仕組みが残り、次フェーズでそのまま使える |
影響範囲を見通せなくする3種類の見えない依存
依存グラフを組み直す過程で、ソースコードを素直に読むだけでは追えない依存が3種類あることが分かりました。これらを可視化できたことが、死活推定の精度を支えています。
| 種別 | どう隠れているか | 電力の古い資産での現れ方 |
|---|---|---|
| (1) ファイル/中間データ経由の暗黙連携 | バッチが中間ファイルを介してデータを受け渡し、プログラム同士の依存がソースに明示されない | 月次料金バッチや設備台帳更新で、COBOL間がワークファイル経由でつながる |
| (2) 共有テーブルによる暗黙結合 | 複数サブシステムが同一テーブルを読み書きし、事実上のメッセージ交換をしている | RYOKIN・KEIYAKUを検針(KN)・料金(RY)・収納(SU)が共有。連携基盤(RN)経由の状態テーブル |
| (3) Shell/JCL経由のCOBOL⇔VB6間接結合 | 直接呼び出しはないが、バッチ/ジョブ定義が両者を順に起動する | 月次請求バッチが、COBOL(料金計算)とVB6(帳票/画面連携)をジョブ列で連結 |
これらはソースにCALLが書かれていないため、静的解析だけでは途切れて見えます。deleはバッチ/JCL定義とDBアクセスの痕跡を突き合わせて、この途切れを補いました。**推定死亡の判定で「孤立している」と言うには、この3種類の見えない依存をすべて潰したうえで、なお誰ともつながっていないことを確認する必要があります。**孤立判定の確度は、この補完作業をどこまで徹底したかで決まります。
解析で見つかった例
料金計算(RY)系のあるCOBOLプログラム(数百行)をAIで解析したところ、処理の中身は、月次の料金明細ワークを全件ループしながら1件ずつ集計・更新するだけでした。**いまの技術なら1本のSQLに置き換えられます。**20年以上前の技術制約の中で数百行を使って書かれた処理が、いまでは数行で済みます。
このように簡単に置き換えられる資産が、古い請求系に多数あります。ここから2つのことが言えます。(a)モダナイズのコストは従来の見積もりより大幅に小さくなりうること、(b)COBOL要員に頼らずAIの助けで読解・変換できることです。**全面書き換えに数年かかるという前提そのものが、AI解析によって変わります。**これが次フェーズのモダナイズ方針の根拠の一つです。
提供資産のカバレッジ
依存グラフ596本のうち、対応ソースが提供されたのは397本(66.6%)です。残る199本(33.4%)は、呼び出しの記述に名前が登場する一方、対応ソースが今回は未提供でした。この199本は、次の手がかりから役割とつながりを推定して地図上に補いました。
- 呼び出し元の記述: どのプログラムから、どんな引数・文脈で呼ばれているか
- バッチ/JCLの実行順序: どのジョブ列の、どの位置で起動されるか
- DBアクセスの痕跡: 呼び出し前後で読み書きされるテーブルから、役割を推定
この「名前は残っているが実物がない」状態は、正本を一元管理する仕組みがないことの直接の証拠です。全社スクリーニングで対象を広げれば、同じように実物の所在が分からない資産がさらに出てくる可能性が高いと見ています(第6章 提言2)。
従来の全面書き換えとの違い
古いシステムの刷新というと全面書き換えを思い浮かべがちですが、deleのやり方は前提が違います。
| 観点 | 従来の全面書き換え | dele(AI駆動・死活起点) |
|---|---|---|
| 起点 | いきなり全部を対象に見積もる | まず死活を可視化し「そもそも必要か」を判定 |
| 不要資産の扱い | 書き換え対象に含めてしまう | 書き換えずに廃止(Retire)。工数を最初に圧縮 |
| COBOL/VB6読解 | 熟練要員が1行ずつ読む(年単位) | AIが読解・役割復元を肩代わり(短期間) |
| 進め方 | 数年規模の一括刷新 | 領域単位・段階的。並行稼働で安全に切替 |
| 成果の残り方 | 報告書 | 複製環境・依存グラフ・採点の仕組みが次フェーズでそのまま使える |
要点は、残すと決めたものだけを改善するという順序です。まず動いていない資産を止め、次に残すと決めたものだけをAIの助けで速くモダナイズします。COBOL要員が減っている電力業界では、AIが読解を代わりに行うことが、モダナイズを現実的なコストと期間に収める条件になります。
本手法の限界と、その手当て
この手法には限界が3つあります。いずれも、知らないまま進めるのではなく、対処の方法をあらかじめ決めています。
| 限界 | 手当て |
|---|---|
| 復元199本は、中身までは分からない(分かるのは存在・呼ばれ方・データの流れ・推定される役割まで) | 削減の可否判断に必要なのは中身ではなく「使われているか・何とつながっているか」であり、それは判定できる。残すと決めたものは次フェーズでソースの所在確認・追加提供を依頼する(正本の一元管理はまさにこのための施策) |
| 推定死亡にも誤りの可能性はある(プログラム間に人間の運用手順が挟まる業務では、つながりが途切れて見えるケースがある) | 止め方で担保する。即削除ではなく「段階的停止+影響観察」で進め、問題が出れば即座に戻す。判定を過信しない運用にしている |
| 観測期間は2ヶ月(年次料金改定・容量市場の年間処理・災害時の縮退運用系など、稼働頻度が極端に低い処理は観測期間外に動きうる) | 実行ログの継続観測で検証範囲を段階的に広げる。低頻度でも「止めてはいけない」処理は、実行契機(JCL/スケジューラ登録)の有無で救済し、機械的に死亡と判定しない |
3. 死活推定の採点方法(5つの証拠・100点満点)
本章の問い: 「生きている/休眠している/死んでいる」を、何を根拠に、どう判定したのか。
判定は感覚ではありません。プログラム1本ごとに5つの証拠を集めて100点満点で採点し、点数で3つに分けます。すべて2026年7月4日時点の推定で、稼働の確証ではありません。
5つの証拠と配点
| # | 証拠 | 最大点 | 何を見るか | 電力事業での意味 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 実データの動き | 30 | 読み書きするテーブルに実データが動いているか | KENSHIN・RYOKIN・NYUKIN等に直近の実績があるか |
| 2 | つながり | 25 | 依存グラフで他プログラムと呼び合っているか | 孤立している=誰からも呼ばれない可能性 |
| 3 | 実行のきっかけ | 20 | 日次/月次/随時など実行契機が運用に組み込まれているか | JCL・スケジューラ・バッチ基盤(BT)への登録有無 |
| 4 | 仕事量 | 15 | テーブルへの読み書き操作の数 | 実質的な処理を担っているか、していないか |
| 5 | 仕様書 | 10 | 設計意図が文書として維持されているか | 機能仕様書246点との紐付き |
証拠1(実データの動き)と証拠2(つながり)に配点を厚くしたのは、実際にデータが動いていて、かつ他とつながっていることが、稼働の最も強い証拠だからです。逆に、この2つがともに欠けるプログラムは、死亡の疑いが濃くなります。
各証拠の見方を、もう少し具体的に示します。
| 証拠 | 高得点になる状態 | 低得点になる状態 | 電力事業での判断上の注意 |
|---|---|---|---|
| 1 実データの動き | KENSHIN/RYOKIN/NYUKINに直近2ヶ月の更新がある | 読み書きするテーブルがない、または更新が止まっている | 参照専用になった現役処理を過小評価しないよう、証拠2〜3で補正 |
| 2 つながり | 複数プログラム/バッチから呼ばれ、下流にも渡す | 依存グラフ上で孤立、または片方向のみ | 見えない依存3種類を潰したうえで孤立を確定 |
| 3 実行のきっかけ | 日次/月次JCL・スケジューラ・バッチ基盤に登録 | どの実行契機にも登録がない | 年次/制度改正時/災害時のみの契機は、頻度が低くても加点(救済) |
| 4 仕事量 | 読み書き操作が多く、実質的な処理を担う | 操作がほぼなく、実質的な処理をしていない | 少量でも重要処理(インバランス精算等)は他証拠で補正 |
| 5 仕様書 | 機能仕様書と紐付き、設計意図が維持 | 仕様書なし、ソース読解に依存 | 仕様書の有無は補助証拠。欠落だけで死亡とはしない |
判定の閾値
| 合計点 | 判定 | 意味 |
|---|---|---|
| 50点以上 | 推定現役 | 実データ・つながり・実行契機がそろっており、稼働している蓋然性が高い |
| 20〜49点 | 推定休眠 | つながりはあるが、動いた形跡が乏しい。「動いているかもしれない」だけで維持されている疑い |
| 20点未満 | 推定死亡 | データも動かず、つながりもなく、実行契機もない。稼働の形跡が総じて確認できない |
必ず「推定」と読む
この判定は、2026年7月4日時点・証拠期間(2026年4〜5月)の範囲内での推定です。とりわけ電力事業には、年次・制度改正時・災害時にしか動かない、頻度は低いが欠かせない処理があり、観測期間の外で動いた可能性を排除できません。だからこそ、廃止は即削除ではなく段階的停止+影響観察で進めます(第6章)。
採点の例
採点がどう働くかを、代表的な例で示します(プログラム名は本サイトの表記に合わせた架空名です)。
- RY0142(料金計算・従量本計算): 読み書きするRYOKIN・KENSHINに直近2ヶ月で実データが動き、収納(SU)・帳票(CH)から呼ばれ、月次JCLに登録されています。**推定現役(92点)**です
- KNB210(旧検針取込・特定料金メニュー向け): つながりは残っていますが、実行ログに一度も登場せず、読み書きの実データも動いていません。スマートメーター移行で役割を終えた疑いがあります。**推定休眠(34点)**です
- SB330S(設備台帳・旧様式変換): どのテーブルも読み書きせず、誰からも呼ばれず、実行契機もありません。同名の新版が別フォルダにある重複旧版です。**推定死亡(11点)**です
このように、同じサブシステムの中でも1本ずつ点数が違います。だからこそ「領域まるごと残す/止める」ではなく、「この1本は止められる、この1本は残す」という粒度で経営判断ができます。プログラム1本ごとの採点内訳はプログラム別分析で確認できます。
採点の内訳がどう積み上がるかを、上記3例の証拠別の点数で示します(架空の例です)。
| 証拠(最大点) | RY0142(現役) | KNB210(休眠) | SB330S(死亡) |
|---|---|---|---|
| 実データの動き(30) | 28 | 6 | 0 |
| つながり(25) | 24 | 14 | 2 |
| 実行のきっかけ(20) | 18 | 6 | 0 |
| 仕事量(15) | 14 | 5 | 2 |
| 仕様書(10) | 8 | 3 | 7 |
| 合計(100) | 92 → 現役 | 34 → 休眠 | 11 → 死亡 |
注目してほしいのは、SB330S(死亡)が仕様書だけは7点取っている点です。**仕様書は残っているのに、実物は動いていません。**これは同じ処理の旧版によくある形で、文書だけを見ると生きているように見えます。5つの証拠を合算するので、文書があることに惑わされずに死活を判定できます。
4. 結果(全体分布と非稼働率)
本章の問い: 採点397本は、全体としてどういう状態だったか。
全体分布
| 判定 | 本数 | 割合 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 推定現役 | 269本 | 67.8% | 実データ・つながり・実行契機がそろい、稼働の蓋然性が高い |
| 推定休眠 | 82本 | 20.7% | つながりはあるが動いた形跡が乏しい。維持継続の要否を要判断 |
| 推定死亡 | 46本 | 11.6% | 稼働の形跡が総じてなく、廃止の第一候補 |
| 合計 | 397本 | 100% |
- 推定非稼働率 = 32.2%(推定休眠82+推定死亡46=128本 / 397本)
- 言い換えると、採点した3本のうち2本は現役ですが、残り1本は稼働の証跡を確認できませんでした
この32.2%は「即座に3割削れる」という意味ではない
非稼働率32.2%は削減・整理の余地の目安であり、そのまま廃止できる数ではありません。確度が高いのは推定死亡46本(11.6%)で、ここは根拠が明確なので段階的停止に着手できます。推定休眠82本は、実行ログの継続観測と現場確認で確度を高めてから判断します。まず46本、次に82本の精査という二段構えで進めます。
非稼働は領域によって偏っている
重要なのは、この32.2%が全領域に均等に散らばっているわけではないという点です。
- 給電系(領域C)はほぼ全部が現役です(非稼働率1.9%)。止められない領域は、無駄なく生きています
- 請求系(領域A CIS)と共通基盤に非稼働が集中しています(それぞれ41.6%・42.5%)
削減余地は請求系と共通基盤に偏っています。**止める場所と守る場所が、データではっきり分かれました。**これが今回いちばん大きな発見です。領域別の詳細は第5章で述べます。
変更の影響が集中する主要なハブ
依存グラフ上で、多くのプログラムから読み書きされるハブを特定しました。ここは変更したときの影響範囲が広く、モダナイズのときも慎重に扱う必要があります。
| ハブ(テーブル/基盤) | 領域 | 役割 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| RYOKIN(料金計算結果) | A | 検針→料金→請求→収納の中継点 | 料金改定のたびに多数のプログラムが参照。制度対応の変更集中点 |
| KEIYAKU(契約マスタ) | A | 全料金・収納処理の前提 | スイッチング(小売切替)・契約変更が全体に波及 |
| 連携基盤ESB(RN) | 共通 | 領域間・外部(市場/託送)連携のハブ | ここが詰まると領域をまたいだ処理が停止 |
| マスタ管理(MS) | 共通 | 全社共通コード・供給地点マスタ | 呼称・コード体系の不統一がここに現れる |
ハブへの変更の影響は、プログラム別分析の依存関係で1本ずつ確認できます。
処理パターンの分類
採点した397本を処理の型で分けると、古い請求系によくある5つのパターンになります。パターンごとに削減・統合のやり方が違います。
| パターン | 概要 | 主に見られる領域 | 削減・統合の方向性 |
|---|---|---|---|
| A: 取込・変換 | 外部データ(検針・市場・託送)の受信 → DBへ取込 | A(検針)・D(市場/託送) | 得意分野別の個別処理を、定義駆動の統合エンジンへ |
| B: DB間データ変換 | テーブルA読込 → 計算 → テーブルB書込 | A(料金)・B(設備) | 共通フレームワーク化。SQL化で行数を圧縮 |
| C: バッチ一括更新 | 全レコードに同一操作を適用(月次リセット等) | A・共通 | 汎用バッチライブラリへ統一。多くはSQL数行に置換可能 |
| D: 帳票生成 | テーブル結合・集計 → 帳票/CSV出力 | A(請求)・共通(帳票基盤CH) | 帳票エンジン共通化。旧様式帳票は廃止候補 |
| E: マスタメンテ画面 | GUIによるCRUD操作 | A(契約/CRM)・B(台帳) | 画面フレームワーク化。VB6画面の操作性は維持 |
推定死亡と推定休眠は、**パターンA(得意分野別に増えた取込・変換)とパターンD(旧様式帳票)**に集中しています。制度・料金メニュー・様式が変わるたびに新しいプログラムを作り、旧版を止めずに残してきたためです。データがそれを裏付けています。
見えていなかったものを数字にする
今回の可視化で初めて数字になったものを整理します。
| 指標 | 数値 | 意味 |
|---|---|---|
| ソース未提供の資産 | 199本 / 596本(33.4%) | 名称と呼び出し痕跡から存在を復元。正本・所在は要照合 |
| 稼働の証跡が確認できない資産 | 128本 / 397本(32.2%) | 止めていいか判断できず、維持コストを払い続けている |
| うち根拠が明確な推定死亡 | 46本 / 397本(11.6%) | 段階的停止に着手できる確度の高い削減候補 |
**3本に1本がソース未提供で、3本に1本弱が稼働証跡なしです。**この2つを解消しないと、制度対応の影響範囲も、維持する対象も確定できません。ソース未提供199本が正本管理の問題なのか、今回の提供範囲の問題なのかは、正本の照合で確かめます。
4-1. 推定死亡・推定休眠の内訳と根拠パターン
推定死亡46本・推定休眠82本が、なぜそう判定されたのかを根拠のパターン別に整理します。判定は単一の理由ではなく、複数の証拠が同時に欠けていることで決まっています。
推定死亡(46本)の代表的な根拠パターン
| パターン | 何が起きているか | 電力事業での背景 |
|---|---|---|
| 孤立(つながりゼロ) | どのプログラム・バッチからも呼ばれず、どこも呼ばない。依存グラフ上の孤立点 | メニューからは外されたが、モジュール本体が退避されず残置。料金メニュー改廃の名残 |
| 空ファイル・実質空 | ソースは存在するが、読み書きするテーブルがなく処理実体がほぼない | 制度対応で作りかけたまま放棄された枠、またはテンプレートの残り |
| 重複バージョンの旧版 | 同名・同機能の新版が別フォルダに存在し、旧版が本番から参照されていない | 物理ディレクトリによるバージョン退避(例: 旧版フォルダ)。正本を確定できる仕組みがない |
| 実行ログ無ヒット+データ不動 | 2026年4〜5月の実行ログに一度も登場せず、扱うテーブルにも実データの動きがない | 特定得意分野向け・旧料金体系向けに作られ、制度移行で役割を終えた処理 |
推定死亡46本は、上のパターンに複数同時に当てはまるものが大半です(例: 孤立していて、かつ実行ログにも登場しない)。根拠が重なっているので、廃止の確度が高くなります。ただし前述のとおり、廃止は段階的停止と影響観察で進めます。
代表的な推定死亡の例を、根拠パターンとともに示します(プログラム名は本サイト表記に合わせた架空名です)。
| プログラム(架空名) | 領域 | 主な根拠パターン | 背景の推定 |
|---|---|---|---|
| SB330S | B 設備台帳 | 重複バージョン旧版+孤立 | 台帳様式更改で新版に置換されたが旧版が退避されず残置 |
| KNB210 の旧世代 | A 検針 | 実行ログ無ヒット+データ不動 | スマートメーター移行前の旧検針取込。次世代検針で役割終了 |
| CH旧様式帳票群 | 共通 帳票基盤 | 孤立+実行ログ無ヒット | 制度改正で帳票様式が変わり、旧様式出力が呼ばれなくなった |
| RY旧料金メニュー処理 | A 料金計算 | 空/実質空+実データ不動 | 廃止された料金メニュー向けの計算枠。契約が存在しない |
| BT旧ジョブ制御 | 共通 バッチ基盤 | 孤立+実行契機なし | 新バッチ基盤へ移行後、旧ジョブ制御スクリプトが残置 |
いずれも、作られたあと役割を終えたのに、誰も止めていないものです。**廃止しても失われる価値はありません。維持コストと、依存グラフが複雑になることだけが残っています。**これが推定死亡に共通する形です。
推定休眠(82本)の代表的な根拠パターン
| パターン | 何が起きているか | 判断の注意点 |
|---|---|---|
| つながりはあるが実行ログ無ヒット | 呼び出し関係は残るが、観測期間中に動いた形跡がない | 年次・制度改正時のみ動く処理の可能性。実行契機(スケジューラ登録)の有無で救済を検討 |
| 実データが枯れている | 読み書きするテーブルに直近の更新がない | データ移行後に参照専用になった/新系統に切り替わった可能性 |
| 仕様書のみ生存 | 仕様書は残るが、コードの稼働証跡が乏しい | 「使うかもしれない」で維持され、保守費だけ払っている候補 |
推定休眠は、止めていいか判断できないので全部維持する、という状態を生みます。**維持コストは払い続けているのに、価値を生んでいるかが分かりません。**ここに整理の余地があります。休眠判定の確度を上げるには、実行ログの観測を続けて期間を延ばすのがいちばん効きます。
推定死亡・推定休眠の廃止・整理の進め方
- プログラムの利用状態を分類する(完了。本PoCで推定として実施)
- 推定死亡46本を優先候補として整理する(完了。本PoC)
- 推定死亡から段階的停止+影響観察で廃止に着手する(次フェーズ)
- 推定休眠82本は実行ログの継続観測・現場確認で確度を高めてから段階的に整理する(次フェーズ)
推定死亡・推定休眠それぞれの一覧は、プログラム別分析で判定カテゴリごとに絞り込めます。
5. 領域別の評価
本章の問い: どの領域に、どれだけの削減余地があるのか。守るべきはどこか。
領域別サマリー
採点397本を領域別に見ると、非稼働率は1.9%〜42.5%と20倍以上の開きがあります。削減余地は請求系(A)と共通基盤に偏っていて、給電系(C)は健全です。
| 領域 | 採点本数 | 推定現役 | 推定休眠 | 推定死亡 | 推定非稼働率 | 一言所見 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A 料金・顧客情報(CIS) | 154 | 90 | 40 | 24 | 41.6% | 古い請求系。削減余地が最大 |
| B 送配電設備管理 | 98 | 63 | 24 | 11 | 35.7% | 台帳・図面系に旧様式の残置が多い |
| C 需給運用・給電 | 53 | 52 | 1 | 0 | 1.9% | 一時も止められない領域。健全 |
| D 電力取引・託送 | 52 | 41 | 7 | 4 | 21.2% | 制度で拡張、比較的新しく無駄少なめ |
| 共通 全社基盤 | 40 | 23 | 10 | 7 | 42.5% | 使われない資産が多い基盤。整理効果が全社に波及 |
| 合計 | 397 | 269 | 82 | 46 | 32.2% |
以下、領域ごとに所見を述べます。
領域A 料金・顧客情報(CIS): 非稼働率41.6%
**削減余地がいちばん大きい領域です。**検針(KN)から料金計算(RY)、収納・消込(SU)、請求(帳票CH)までの一連を担う請求系の中核で、同時に古い資産がいちばん多い領域でもあります。
| 観点 | 所見 |
|---|---|
| 技術構成 | 料金計算・収納の中核はメインフレームのCOBOL/JCL資産。契約管理・CRMはVB6/一部Java |
| 非稼働の要因 | 料金メニュー・料金改定・特定契約種別ごとにプログラムを増やしてきた結果、旧料金体系・旧検針方式向けの資産が誰も止めないまま残置 |
| スマートメーターの影響 | 次世代検針(HES/MDMS)への移行で、旧検針取込(KN系)の一部が役割を終えつつある。推定休眠・死亡の一定数はこの移行の名残 |
| 制度対応リスク | 料金改定のたびにRYOKIN・KEIYAKUハブ周辺の広範な改修が必要。COBOL要員が減り、対応が遅れる懸念 |
| 総合評価 | 推定死亡24本は段階的停止の第一候補。推定休眠40本はスマメ移行状況と突き合わせて整理。中核の現役COBOL(RY/SU)は要員リスクの観点でモダナイズ検討対象 |
領域Aは削減余地が最大で、同時に制度改正への対応をいちばん遅くしている領域でもあります。ここを整理して新しくすると、料金改定への対応にかかる期間が短くなります。
サブシステム別に見ると、非稼働の偏りと処置の方針は次のように整理できます。
| サブシステム | 技術 | 状態の傾向 | 推奨処置 |
|---|---|---|---|
| 検針管理(KN) | VB6/COBOL | スマメ移行で旧検針取込に休眠・死亡が集中 | 旧取込はRetire、現役はHES/MDMS連携へModernize |
| 料金計算(RY) | COBOL/JCL | 中核は現役だがCOBOL要員リスク大。旧料金メニュー処理に死亡 | 旧処理Retire、中核はModernize(要員リスク) |
| 収納・消込(SU) | COBOL | 現役中核。入金明細(NYUKIN)と密結合 | Keep→段階的にModernize/Wrap |
| 契約管理(KY) | VB6/一部Java | スイッチング対応で拡張。旧契約種別に休眠 | 現役Keep、旧種別処理を精査しRetire |
| 顧客対応CRM(CS) | VB6 | 画面系。操作性維持が要件 | 画面フレームワーク化でRefactor/Modernize |
今後の方向: 得意分野別・料金メニュー別に増えた取込・計算処理を、定義で動く1つの基盤にまとめます。料金改定の作業を「プログラムの新規開発」から「定義ファイルの追加・変更」に変えると、制度対応にかかる期間を大きく短縮できます。ただし料金計算・収納の中核は止まったときの影響が大きいので、並行稼働と差分検証で慎重に進めます。
領域B 送配電設備管理: 非稼働率35.7%
設備台帳(SB)・工事管理(KJ)・保全計画(HZ)・図面/GIS(GS)・停電管理(TD)を担います。設備を長く使うのに合わせてシステムも長く動かしてきたため、旧様式変換の残置が多くなっています。
| 観点 | 所見 |
|---|---|
| 技術構成 | 台帳・工事はVB6/クライアントサーバー主体。図面/GISは専用パッケージ連携。停電管理は災害対応上の重要系 |
| 非稼働の要因 | 設備台帳の様式変更・GIS更改に伴う旧様式変換プログラムが、新様式移行後も残置。SB330Sのような重複旧版が散見される |
| 災害対応の論点 | 停電管理(TD)は災害時に稼働する重要系。観測期間中の実行頻度が低くても、実行契機があるものは休眠・死亡と即断しない |
| 総合評価 | 推定死亡11本は旧様式変換の残りが中心で廃止しやすい。停電管理(TD)は「頻度は低いが欠かせない」の代表で、慎重に救済判定 |
サブシステム別の傾向は次のとおりです。
| サブシステム | 状態の傾向 | 推奨処置 |
|---|---|---|
| 設備台帳(SB) | 様式更改の旧変換に重複旧版・死亡が集中 | 旧版Retire、現役はマスタ統一でRefactor |
| 工事管理(KJ) | 現役中心。設備台帳(SETSUBI)・工事(KOUJI)と連携 | Keep→Modernize検討 |
| 保全計画(HZ) | 定期保全の計画系。現役 | Keep |
| 図面・GIS(GS) | 専用パッケージ連携。旧様式取込に休眠 | 旧取込Retire、連携部はWrap |
| 停電管理(TD) | 災害時の重要系。頻度は低いが欠かせない | Keep+災害対応の強化(削減対象外) |
今後の方向: 設備は長く使うので、台帳とGISは長く正確に保つことを最優先にします。旧様式変換の残りをRetireで取り除いて見通しを良くし、停電管理(TD)は災害対応のために監視と冗長化を強化します。
領域C 需給運用・給電: 非稼働率1.9%(健全)
需給計画(JK)・給電指令(KD)・系統運用(KT)・予備力管理(YB)を担う領域です。24時間365日、一時も止められません。
| 観点 | 所見 |
|---|---|
| 健全性 | 採点53本中、推定死亡0本・推定休眠1本。ほぼ全プログラムが現役で、無駄がほとんどない |
| なぜ健全か | 常時稼働・高可用が絶対の要件のため、使われないプログラムを抱える余地がそもそもない。運用が資産を規律している |
| 経営上の意味 | この領域は減らす対象ではなく、守って強くする対象。災害・広域停電への備えとして、依存関係の可視化と障害の波及範囲の縮小に投資すべき |
| 総合評価 | 現状維持+強化。止めるのではなく、監視・冗長化・依存整理で止まらなさをさらに高める |
止められない領域がほぼ全部現役だという根拠が、この1.9%です。ここに削減の話を持ち込む必要はありません。
領域D 電力取引・託送: 非稼働率21.2%
卸電力取引JEPX(TR)・インバランス精算(IB)・託送業務(TS)・スイッチング(SW)・需要予測(YS)を担います。電力自由化・市場制度の整備に合わせて比較的新しく作った部分が多く、非稼働率は中程度です。
| 観点 | 所見 |
|---|---|
| 技術構成 | 市場・託送連携はJava/一部.NET主体で比較的新しい。需要予測(YS)は分析系との接点 |
| 非稼働の要因 | 制度移行(旧インバランス制度→新制度、容量市場・需給調整市場の追加)に伴う旧処理の残置。TR/IB周辺に旧約定処理の休眠が見られる |
| 制度対応の勘所 | インバランス精算(IB)の誤りは託送・市場取引に直結する。現役処理の正確さが最優先で、休眠の整理は慎重に |
| 総合評価 | 推定死亡4本は旧制度対応の残り。推定休眠7本は市場制度の移行状況と突き合わせて整理。全体としては比較的健全 |
共通基盤 全社基盤: 非稼働率42.5%(整理の効果が全社に及ぶ)
マスタ管理(MS)・帳票基盤(CH)・連携基盤ESB(RN)・認証/権限(NB)・バッチ基盤(BT)を担います。全領域が依存する土台ですが、非稼働率はいちばん高い領域です。
| 観点 | 所見 |
|---|---|
| 非稼働の要因 | 帳票基盤・バッチ基盤に、旧様式帳票・旧バッチジョブの残置が多い。マスタ管理には使われないコード変換ユーティリティが堆積 |
| なぜ整理効果が大きいか | 共通基盤は全領域から参照される。ここを整理すると、依存グラフ全体の見通しが良くなり、他領域の変更影響調査も軽くなる |
| ハブの論点 | 連携基盤ESB(RN)・マスタ管理(MS)はハブ。現役部分は慎重に、休眠・死亡の周辺ユーティリティから整理する |
| 総合評価 | 推定死亡7本・休眠10本は周辺ユーティリティが中心で着手しやすい。ハブ本体は包む(Wrap)・改善(Refactor)で段階的に |
サブシステム別の傾向は次のとおりです。
| サブシステム | 状態の傾向 | 推奨処置 |
|---|---|---|
| マスタ管理(MS) | 供給地点・共通コードのハブ。使われないコード変換が堆積 | 周辺Retire、本体はRefactor(コード体系統一) |
| 帳票基盤(CH) | 旧様式帳票の残置が多い | 旧様式Retire、帳票エンジン共通化でModernize |
| 連携基盤ESB(RN) | 領域間・外部連携のハブ。現役 | Keep→Wrap(I/F近代化) |
| 認証・権限(NB) | 全社横断の基盤。現役 | Keep |
| バッチ基盤(BT) | 旧ジョブ制御の残置。現行基盤へ移行済み | 旧制御Retire、実行契機の可視化 |
今後の方向: 共通基盤は全領域が依存する土台です。まず周辺の使われていないユーティリティから取り除き、ハブ本体は包んで守ります。マスタ管理のコード体系を統一して呼称と供給地点を名寄せすると、領域をまたいだデータの突き合わせが正確になり、経営情報を出すまでの時間も短くなります。
領域別まとめ(止める場所と守る場所)
止めやすく効果が大きい: 共通基盤(42.5%)・料金CIS(41.6%)・送配電(35.7%)の推定死亡から着手します。 守って強くする: 需給・給電(1.9%)。ここは削減ではなく、災害への備えに投資します。 慎重に整理する: 電力取引・託送(21.2%)。制度対応の正確さを最優先にします。
6. 経営提言と次フェーズ・ロードマップ
本章の問い: この評価結果を受けて、経営として何を、どの順番で実行するか。
処置方針の5分類(Disposition)
全プログラムを、次の5つの処置方針に振り分けて実行します。まとめて刷新するのではなく、1本ずつ最適な扱いを選ぶのが要点です。
| 処置 | 判断基準 | 未来明るく電力での典型例 |
|---|---|---|
| Retire(廃止) | 孤立・空・重複旧版・実行ログ無ヒットが重なる推定死亡 | 旧料金メニュー向け処理(A)、旧様式変換の残り(B/共通) |
| Keep(現状維持/強化) | 安定稼働・停止リスクが高い中核。変化要求が少ない | 需給・給電の現役処理(C)、停電管理の重要系(B) |
| Wrap(包む) | 中身は触らずI/Fだけ近代化。市場/託送/外部連携が必要 | 連携基盤ESB(RN)経由の外部接続、残置COBOLのAPI化 |
| Refactor(改善) | 構造的課題(重複・命名不整合)の是正。ロジックは不変 | マスタ管理の統一、共通ユーティリティの集約 |
| Modernize(刷新) | 変化頻度が高い/技術リスクが高い/コスト削減効果が大きい | 料金計算・収納のCOBOL(A)、次世代検針連携 |
処置方針は、止まったときの影響と変化の頻度の2つで大きく分けられます。
- 停止リスク高 × 変化頻度高 → Modernize最優先(料金CIS中核)
- 停止リスク高 × 変化頻度低 → Keep/Wrap(給電系・停電管理)
- 停止リスク低 × 変化頻度低 → Retire(推定死亡)
- 停止リスク低 × 変化頻度高 → Refactor→Modernize(共通ユーティリティ)
提言1: 推定死亡46本の廃止に着手する
最も確度が高く、最初に着手する施策です。
- 対象: 推定死亡46本(孤立・空・重複旧版・実行ログ無ヒットが重なるもの)
- 方式: 即削除ではなく 段階的停止+影響観察。まず本番からの参照を切り、一定期間問題が出ないことを確認してから廃止を確定します。問題が出れば即座に戻します
- 効果: 管理対象が確実に減り、依存グラフの見通しが良くなります。止められる所から止める、最初の一歩です
- 優先順位: 共通基盤・料金CISの推定死亡から着手します(整理の効果が全社に及び、かつ止めたときのリスクが低いためです)
提言2: 構成管理(正本の一元化)を導入する
**復元199本(全体の1/3)は、実物のありかが分かりません。**これが制度改正への対応を遅らせている根本の課題です。
- 対象: 本番稼働バイナリと提供ソースの照合による正本の確定、バージョン管理(Git等)の導入、物理ディレクトリ退避による重複旧版のアーカイブ化
- 効果: 「本番で動いているのはどれか」に即答できる状態をつくります。制度改正のたびにソース探しから始める無駄がなくなります
- 位置づけ: 廃止・モダナイズの前提になる整備です。これがないと、残すと決めたものの改修すら安全に始められません
提言1の実行手順(Phase 0)
推定死亡の廃止は、リスクを抑えるため次の順で進めます。
- 対象確定: 推定死亡46本のうち、共通基盤・料金CISの「孤立+実行ログ無ヒット+重複旧版」が重なるものを最初のまとまりとして選びます(止めたときのリスクが最も小さいためです)
- 見えない依存の再確認: ファイル経由・共有テーブル・Shell/JCL経由の3種類の見えない依存を再点検し、本当に誰ともつながっていないことを確認します
- 参照の切り離し: 本番からの起動・参照を停止します(削除ではなく無効化です)
- 影響観察: 一定期間(月次処理を1〜2サイクル含む)、業務・後続処理に問題が出ないか観察します
- 廃止確定 or 復帰: 問題がなければ廃止を確定してアーカイブ化します。問題が出れば即座に復帰させ、休眠へ再分類します
この段階的停止と影響観察は、止められない基幹システムでは必ず必要な手順です。判定を過信せず、いつでも戻せる状態を保ったまま止めます。
提言3: 全社スクリーニング(第2クール)を実行する
今回の手法(複製環境・依存グラフ・5証拠採点)は、そのまま他の領域にも使えます。
- 対象: 今回は対象外とした発電設備制御・ERP・情報系・次世代検針基盤の内部
- 進め方: まず全領域を広く簡易採点し、削減余地とリスクをヒートマップで可視化します。問題が出た領域を精密採点(A〜Dと同等)する2段階で進めます
- 効果: 領域A〜Dでつくった仕組みを再利用するので、2回目以降はより短期間・低コスト・高精度で進みます。全社の削減余地を経営が一覧できます
ヒートマップは領域ヒートマップ、全社の把握状況は全社システム資産マップで継続的に更新します。
次フェーズの進め方(安全に止めて、置き換える)
現行システムを一括で置き換えるのではなく、領域単位で切り出し、旧環境と新環境を並行稼働させながら出力の一致を検証する段階的な移行を基本にします。電力の基幹系は止められないため、この安全第一の方式が前提になります。
- 領域(またはサブシステム)ごとに切り出す
- 旧環境と新環境を並行稼働させる
- 入出力結果を比較する(差分検証)
- 差異を検証し、問題なければ段階的に切り替える(段階移行・安全な切替)
- 問題が発生した場合は即座に旧環境へ戻す(ロールバック可能)
ロードマップ
Phase 0 ・ 即時・1〜2ヶ月
見える化 + 使われていない資産の停止
構成管理導入(正本確定・Git・重複アーカイブ化)→管理対象の明確化 / 推定死亡46本の段階的停止に着手→確度の高い削減の第一歩 / 依存グラフによる影響確認の運用開始→止めていいかの判断材料
Phase 1 ・ 2〜4ヶ月目
全社スクリーニング + 追加整理
全社の簡易採点(発電/ERP/情報系等)→ヒートマップで全体を俯瞰 / 推定休眠82本の精査(実行ログ継続観測・現場確認)→整理対象の確度向上 / 停止順序の優先度決定→経営判断材料の提示
Phase 2 ・ 5ヶ月目〜
統合・モダナイズ(残すものだけ)
料金CIS中核(COBOL)のモダナイズ検討→要員リスク・制度対応の遅れの改善 / 共通基盤(帳票/バッチ/マスタ)の整理・集約→全社の見通し改善 / 需給・給電(C)の強化→災害への備えの投資(削減ではない)
処置方針別・領域別の実行計画はロードマップ、制度対応の観点はコンプライアンスで継続的に管理します。
意思決定のタイムライン
経営として、どこから止めるかを決めるための時間軸は次のとおりです。
| 時期 | 意思決定・マイルストーン | 内容 |
|---|---|---|
| 2026年7月 | 資産評価PoC完了・次フェーズ開始 | 本レポートを起点に、構成管理の導入と推定死亡の段階的停止に着手 |
| 2026年9月 | ヒートマップ完成 | 全社スクリーニングで「削減可能率 × リスク」を可視化。どこから止めるかの材料が揃う |
| 2026年10月 | 停止順序の意思決定 | ヒートマップを基に、経営が停止の順序(緊急度・重要度・リスク)を決定 |
| 2026年12月 | 中期経営計画への反映 | 削減・モダナイズ計画を中期経営計画に織り込む |
| 2027年1月 | 本格的な実行フェーズへ | 意思決定に基づき、段階的な停止・整理・モダナイズを本格実行 |
2026/7
資産評価PoC完了→次フェーズ開始
構成管理 + 推定死亡の段階停止
2026/9
ヒートマップ完成
どこから止めるかの経営判断材料が揃う
2026/10
停止順序の意思決定
2026/12
中期経営計画へ反映
2027/1〜
本格的な削減・モダナイズ実行フェーズ
評価指標(KPI)
削減・整理は、本数を減らすこと自体が目的ではありません。維持コスト、制度改正への対応力、災害への備えがどれだけ良くなったかを測ります。
| 分類 | 指標 | 現状(推定) | 目標の方向 |
|---|---|---|---|
| 健全性 | 推定非稼働率 | 32.2%(領域偏在) | 推定死亡の廃止で段階的に低減 |
| 見える化 | 正本が確定した資産の割合 | ソース未提供199本(33.4%) | 正本照合後に基準値を確定する |
| 対応の速さ | 変更影響範囲の特定時間 | 依存不可視で長時間 | 依存グラフ運用で短縮 |
| 要員リスク | COBOL中核処理のモダナイズ率 | 未着手 | 要員が減る前に段階的にModernize |
| 災害への備え | 給電・停電系の依存可視化・冗長化 | 部分的 | 重要系の障害波及範囲を縮小 |
主なリスクと対策
| リスク | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 推定死亡の誤判定 | 人間の運用手順が挟まり孤立に見える処理を誤って廃止 | 段階的停止+影響観察。問題発生時は即座に復帰 |
| 低頻度・不可欠処理の見落とし | 年次料金改定・容量市場年間処理・災害時縮退系を休眠と誤認 | 実行契機の有無で救済。観測期間を延長して確度向上 |
| ハブ変更の広範な波及 | RYOKIN/KEIYAKU/ESB等の変更が全体に波及 | 依存グラフで事前把握。Wrapで段階的に隔離 |
| COBOL要員の減少 | モダナイズ着手前に対応要員が不在になる | AI解析による読解・変換で要員依存を低減。優先度を上げる |
| 制度改正の割り込み | 移行中に料金/インバランス等の制度改正が発生 | 並行稼働構成で旧系統を維持しつつ、新系統へ段階移行 |
止める話と守る話を分ける
本レポートの提言は削減に力点がありますが、電力事業では削減と同じ重さで守ることも決める必要があります。2つを混ぜると、守るべき系統に削減の理屈を持ち込む事故が起きます。
| 区分 | 対象 | やること |
|---|---|---|
| 止める(削減) | 推定死亡・休眠(請求系A・共通基盤に偏在) | Retireで管理対象を圧縮し、見通しを改善 |
| 守る(強化) | 需給・給電(C)、停電管理(TD) | 依存可視化・冗長化・監視強化で障害波及を縮小 |
とりわけ災害・広域停電のときに動く縮退運用系や停電管理(TD)は、平常時の実行ログに現れにくいものです。これらを死活採点だけで判断せず、災害時にしか動かないが欠かせないという電力特有の性質を織り込んで救済します。災害への備えは削減とは逆方向の投資ですが、削減で生まれた費用と人の余裕をここに回すのが本筋です。
体制
| 役割 | 担当 | 内容 |
|---|---|---|
| プロジェクトマネジメント | dele | 全体推進・未来明るく電力との窓口 |
| AI解析・技術リード | dele | 複製環境の運用・依存グラフ解析・改善提案 |
| データ分析 | dele | 死活採点・ヒートマップ作成・定量評価 |
| 事業判断 | 未来明るく電力 経営層 | 停止の順序・投資の最終意思決定 |
| IT部門連携 | 未来明るく電力 情報システム部門 | 資産提供・現場確認・運用面の調整 |
経営への提言(まとめ)
- 確度の高い推定死亡46本から、段階的停止で安全に止めます(Phase 0)
- 復元199本の問題を根本から解くために、構成管理(正本の一元化)を導入します(Phase 0)
- 全社スクリーニングでヒートマップを作り、9月にどこから止めるかの材料を、10月に意思決定を揃えます(Phase 1)
- 需給・給電(C)は削減ではなく強化します。守るべき場所に投資します
- 料金CIS中核のCOBOLは、要員がさらに減る前にモダナイズ方針を固めます(Phase 2)
付録
A. 採点集計の詳細
領域別の採点内訳(再掲)です。すべて2026年7月4日時点の推定です。
| 領域 | 採点本数 | 推定現役 | 推定休眠 | 推定死亡 | 非稼働(休眠+死亡) | 推定非稼働率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A 料金・顧客情報(CIS) | 154 | 90 | 40 | 24 | 64 | 41.6% |
| B 送配電設備管理 | 98 | 63 | 24 | 11 | 35 | 35.7% |
| C 需給運用・給電 | 53 | 52 | 1 | 0 | 1 | 1.9% |
| D 電力取引・託送 | 52 | 41 | 7 | 4 | 11 | 21.2% |
| 共通 全社基盤 | 40 | 23 | 10 | 7 | 17 | 42.5% |
| 合計 | 397 | 269 | 82 | 46 | 128 | 32.2% |
B. 依存構造の主要指標
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 依存グラフ(実体総数) | 596本 |
| うち ソース提供 | 397本(66.6%) |
| うち 呼び出し痕跡から復元 | 199本(33.4%) |
| 依存エッジ | 389本 |
| 死活採点対象 | 397本 |
| 機能仕様書 | 246点 |
| 証拠期間(実行ログ) | 2026年4〜5月 |
| 評価時点 | 2026年7月4日 |
C. 判定ロジックの前提
判定は机上のリスト突合ではなく、次の前提のもとで行いました。
- 提供ソース・依存の手がかりをもとに、本番に触れない複製環境をdele側で再現
- 仕様書欠落等の欠損情報は、AIによるソースコード解析で依存グラフ上に補完(復元199本)
- 2026年4〜5月の実行ログと突き合わせ、依存グラフ(596本・389エッジ)を構築
- ソース提供397本を、5証拠100点満点で採点し3分類
関連ページ
本レポートの数字・判定は、次のページで1本単位まで掘り下げられます。
全社システム資産マップ
4領域+共通の把握状況・診断の進め方・ロードマップを一望する俯瞰ページ
プログラム別分析
採点内訳・依存関係・仕様書プレビューを1本ずつ確認
活動報告
PoC から本格展開まで、フェーズごとの定例報告
領域ヒートマップ
削減可能率×リスクで領域を俯瞰。全社スクリーニングの成果物
ロードマップ
処置方針別・領域別の実行計画と意思決定タイムライン
分類ごとの判定基準は次のとおりです。
| 分類 | 判定基準 | 主に用いたデータ |
|---|---|---|
| 推定現役(269本) | 合計50点以上。実データ・つながり・実行契機がそろう | 実行ログ、依存グラフ、CRUD、仕様書 |
| 推定休眠(82本) | 合計20〜49点。つながりはあるが稼働証跡が乏しい | 実行ログ、依存グラフ、実行契機 |
| 推定死亡(46本) | 合計20点未満。孤立・空・重複旧版・実行ログ無ヒットが重なる | 依存グラフ、CRUD、内容ハッシュ照合 |
D. 判定の確度と次フェーズでの確認事項
- 推定死亡は静的解析・実行ログ突合の上では確度が高いものの、プログラム間に人間の運用手順が挟まることで、依存グラフ上は孤立して見えるケースがありえます
- そのため、廃止は即時削除ではなく段階的停止+影響観察の方式で行い、問題があれば即座に復帰できる状態を保ちます
- 推定休眠は実行ログとの突合を続け、次フェーズで確度を高めたうえで段階的に整理します
- 年次・制度改正時・災害時にしか動かない、頻度は低いが欠かせない処理は、実行契機(スケジューラ/JCL登録)の有無で救済し、機械的に休眠・死亡とは判定しません
E. 処置方針(Disposition)の判断基準・詳細
第6章の5分類を、判断基準と進め方の観点で詳しく示します。
| 処置 | 着手条件 | 進め方 | 逆戻り手段 |
|---|---|---|---|
| Retire(廃止) | 推定死亡。孤立・空・重複旧版・実行ログ無ヒットが重なる | 参照を切る→影響観察→廃止確定 | 段階的停止のため即復帰可能 |
| Keep(現状維持/強化) | 安定稼働・停止リスク高・変化要求少 | 監視・冗長化・依存整理で止まらなさを強化 | 変更しないため逆戻り不要 |
| Wrap(包む) | 中身は不変でI/Fだけ近代化したい | ラッパー/API層を前段に設置 | ラッパー撤去で旧I/Fへ |
| Refactor(改善) | 構造的課題(重複・命名不整合)の是正 | ロジック不変のまま整理。差分検証 | バージョン管理で巻き戻し |
| Modernize(刷新) | 変化頻度高・技術リスク高・削減効果大 | 並行稼働→差分検証→段階切替 | ルーティングで旧系統へ即時切替 |
F. 全社スクリーニング(第2クール)の進め方
領域A〜Dでつくった仕組み(複製環境・依存グラフ・5証拠採点)を、そのまま他の領域へ広げます。手順は2段階です。
Step 1
簡易スクリーニング(領域単位)
ソース受領 + AI静的解析(依存グラフ生成) / 本数・世代構成・依存度の定量把握 / 推定死亡/休眠候補の自動検出→止められそうな領域の特定
Step 2
精密採点(A〜B同等・問題が出た領域に絞る)
5証拠100点満点の死活採点 / 処置方針(Retire/Keep/Wrap/Refactor/Modernize)のドラフト / 停止順序の提案
Step 3
経営判断材料の提示
領域ごとの削減可能率 × リスクレベル(ヒートマップ) / 推奨する停止順序 / 概算の工数・期間
2回目以降は仕組みが揃った状態から始められるので、初回より短期間・低コスト・高精度で進みます。
G. カバレッジ
判定の前提となる提供資産のカバレッジ(ソース提供66.6%/AI復元33.4%、実行ログの証拠期間、領域別非稼働率等)は、本サイトの全社システム資産マップおよびプログラム別分析を参照してください。プログラム1本ごとの採点内訳・依存関係・仕様書プレビューは、各プログラム詳細ページで確認できます。
結び
本件は、老朽化への対応だけの話ではありません。発送電分離・容量市場/需給調整市場・インバランス制度・スマートメーター・災害への備えが同時に進むいま、限られた人と予算を制度対応・事業継続・成長分野へ配分し直すための経営判断です。
止められない領域(需給・給電)は、ほぼ全部が現役でした。その状態を守りながら、古い請求系と、使われないまま残っている共通基盤にある約1/3の削減余地から、証拠に基づいて安全に止めていきます。これが本レポートの提言です。
本レポートは、未来明るく電力 基幹システム 資産評価PoCの成果として、dele が作成したものです。判定はすべて2026年7月4日時点・証拠期間(2026年4〜5月)の範囲内での推定であり、稼働の確証ではありません。実態・数値・認識に相違があれば、ご指摘ください。現場・ログで確認された事実は「現場確認」として本サイトに継続反映します。