調査結果と評価

資産評価レポート(未来明るく電力・領域A〜D)

プロジェクト名: 未来明るく電力 基幹システム 資産評価 PoC(レガシー資産の死活棚卸し) 対象: 領域A(料金・顧客情報 CIS)/領域B(送配電設備管理)/領域C(需給運用・給電)/領域D(電力取引・託送)/共通基盤 評価時点: 2026年7月4日(資産評価PoC)/証拠期間: 2026年4〜5月の実行ログ 作成: dele


目次


はじめに — 本レポートの読み方

本文に入る前に、「この調査で何をしたのか」「どの範囲を見たのか」「判定表記の意味」を先に押さえておく。ここを読んでおけば、本文の数字や判断がどこから来たのか、迷わず読み進められる。

本調査(PoC)で行ったこと — 3行で

本調査は、本格的なシステム刷新に着手する前の実証調査(PoC: Proof of Concept)である。deleが行ったことは次の3つに要約できる。

  1. 未来明るく電力の基幹システムから、ソースコード一式・依存関係の手がかり(ソース/バッチ定義)・2026年4〜5月の実行ログ・機能仕様書をお預かりした
  2. それらを手がかりに、dele社内に「本番に触れない分身環境」を再現し、提供されなかった情報はAIで依存グラフ上に復元・補完した
  3. その分身の上で、**「何が動いていて、何が休眠し、何が死んでいると推定されるか」**を、プログラム1本ずつ証拠に基づいて採点・可視化した

つまり本レポートの数字は、ヒアリングの集計や机上の空論ではなく、実物のコードと実行ログを突き合わせて確かめた観測値と、それに基づく推定である。

判定表記について — 「推定」の意味

本レポートおよび本サイトのプログラム死活判定(現役・休眠・死亡)は、すべて 2026年7月4日時点の推定 であり、「推定現役 / 推定休眠 / 推定死亡」と表記する。この表記には次の意図がある。

  • 判定の根拠は、ご提供いただいた資料(ソースコード・依存の痕跡・2026年4〜5月の実行ログ・機能仕様書)の範囲内の証拠である。実際の本番環境での稼働の確証を得たものではない
  • 例えば「直近2ヶ月の実行ログに登場しない」ことは休眠の強い証拠だが、年次処理・制度改正時のみ動く処理・災害時にしか起動しない縮退運用系が観測期間外に動く可能性は排除できない
  • とりわけ電力事業では、年1回の料金改定バッチ・容量市場の年間約定処理・数年に一度の制度対応処理など、稼働頻度が極端に低いが「止めてはいけない」プログラムが存在する。これらを機械的に休眠・死亡と断ずることはしない

今後は、(1) 実行ログの継続観測(2) 現場確認(段階的停止と影響観察) の両輪で、この推定を確証に近づけていく(第6章 次フェーズ計画を参照)。判定が更新された場合は、本サイトのプログラム別分析にも反映する。現場・ログで確認された事実は、推定判定を書き換えず「現場確認」として重ねて表示する。

最小限の用語

本文は、この8語さえ分かれば読み通せる。

用語意味
ソースコード(ソース)人間が読み書きできる、プログラムの「設計図」。処理の中身が文章として書かれている
プログラム(本)1つの処理単位。COBOLやVB6のソース1本、または呼び出し関係にのみ名前が登場する実体を、それぞれ1本と数える
依存グラフ「プログラムAがBを呼ぶ」「CがテーブルDを読み書きする」というつながりを、点(ノード)と線(エッジ)で表した全体地図
死活採点プログラム1本ごとに5つの証拠を100点満点で採点し、推定現役/推定休眠/推定死亡に分類する手続き
非稼働率採点対象のうち、推定休眠と推定死亡が占める割合。「削減・整理の余地」の目安
EOL(End of Life)OS・言語・ミドルウェアのサポート終了。パッチ・障害対応が受けられなくなる期限
インバランス計画値と実需給の差。精算(IB)を誤ると託送・市場取引に直結する電力事業特有の勘定
機能仕様書プログラムの設計意図を記した文書。維持されていれば移行時の確認がソース読解に依存しなくて済む

数字の読み方

本レポートには「プログラム数」が数え方の違いで複数登場する。混同を避けるため、初出箇所で必ず数え方を明記する。

  • 依存グラフ 596本: 呼び出し関係に名前が登場する実体の総数。うちソース提供 397本(66.6%)呼び出し痕跡から復元 199本(33.4%)
  • 死活採点 397本: 実物のソースが提供され、5証拠で採点できた本数。復元199本は「存在・つながり・役割の推定」までにとどまるため、採点対象から除く

以降、単に「採点」と言うときは397本を指す。


エグゼクティブサマリー

レガシーシステムからの脱却は、情報システム部門の技術課題ではない。発送電分離・制度改正・レジリエンス強化が同時進行するいま、事業継続と機動的な制度対応のために経営が直視すべきアジェンダである。

まず、現状認識を正確に示す。

本レポートの結論(先に要点)

止められない領域(需給運用・給電)は、ちゃんと生きている。 一方で、レガシー請求系(料金CIS)と塩漬けの共通基盤に、全体の約1/3の削減余地がある。ここから安全に切る。

人間の健康に例えるならば、突然死の兆候はないが、健康状態には偏りがあり、生活習慣を見直すべき状態である。今すぐ全系統が止まるわけではないが、放置すべきではない領域が明確に見えている。

確定した数字

今回の資産評価PoCで観測・採点した確定値は次の通り(2026年7月4日時点の推定)。

指標
依存グラフ(実体総数)596本(ソース提供 397本=66.6% / 呼び出し痕跡から復元 199本=33.4%)
依存エッジ389本
死活採点397本(推定現役 269 / 推定休眠 82 / 推定死亡 46)
全社の推定非稼働率32.2%(採点397本中、推定休眠82+推定死亡46=128本が稼働の証跡なし)
機能仕様書246点

採点397本のうち、3本に1本弱で稼働の証跡が確認できなかった。これが「約1/3の削減余地」という経営メッセージの技術的な裏付けである。ただし内訳は領域によって大きく異なり(第5章)、削減余地は請求系と基盤に偏在している。

レガシー放置が電力事業にもたらす5つの経営リスク

レガシーシステムの放置がもたらすリスクは、「システムが古くて動かなくなる」というIT部門の問題に留まらない。以下の5つが、事業の持続可能性と制度対応の機動力を静かに、しかし確実に蝕んでいる。

#経営リスク電力事業における具体的な影響
1IT維持コストの高止まりメインフレーム請求系(COBOL/JCL)のランタイム・ミドルウェアが相次いでEOLを迎え、延長サポート費が固定費化。収益に見合わないインフラ支出が積み上がる
2人的リソースの固定化次世代検針(スマートメーター/HES・MDMS)、容量市場・需給調整市場対応、レジリエンス強化に向けるべき人材が、局所的なレガシー保守に割かれ続けている
3技術者不足による対応不能リスク料金計算(RY)・収納(SU)の中核はCOBOL資産。読み書きできる要員が高齢化・退職で市場から枯渇しつつある。担当者の異動と同時に「誰にも触れないブラックボックス」化する
4変化対応力の欠如 — 制度改正への俊敏性喪失依存関係が不可視で影響範囲の調査に時間を要し、料金改定・インバランス制度・スイッチング(小売切替)等の制度改正対応が後手に回る。「やりきれない」が常態化する
5データ分散・ブラックボックス化正本(どれが本番で動いている版か)不明、仕様書欠落、依存の不可視。実態が見えないため、経営がどこから手を付けるべきか判断できない

問題は「保守に人や費用をかけること」自体ではない。限られた経営資源が、本来注力すべき制度対応・レジリエンス・DX領域ではなく、局所的なレガシー維持に固定化されている——これが本質的な経営課題である。

経営メッセージ — どこは生きていて、どこに余地があるか

今回の採点を領域別に俯瞰すると、未来明るく電力の資産はくっきりと2つに分かれる

  • 止められない領域は健全: 需給運用・給電(領域C)の推定非稼働率は1.9%。24時間365日の系統運用・給電指令を担うミッションクリティカル領域は、ほぼ全プログラムが現役で、無駄がほとんどない。ここは「守る・堅牢化する」対象であり、削減対象ではない
  • 請求系と基盤に余地が偏在: 料金・顧客情報(領域A CIS)は41.6%、共通基盤は**42.5%**が非稼働。制度改正のたびに得意分野別・料金メニュー別にプログラムを増築してきた結果、使われなくなった資産が「誰も止めていない」まま残っている

止められない領域(需給・給電)はちゃんと生きている。一方、レガシー請求系と塩漬け基盤に全体の約1/3の削減余地。ここから安全に切る。

本レポートのストーリー

  1. 直ちに全系統が壊れる兆候はない
  2. しかし、資産の健康状態には偏りがある
  3. 需給・給電(C)は健全。請求系(A)と共通基盤に非稼働資産が集中している
  4. その結果、維持コスト・人材固定化・制度対応の遅延という経営課題が生じている
  5. 採点397本のうち128本(約1/3)で稼働の証跡が確認できなかった
  6. とりわけ推定死亡46本は、根拠が明確で安全に廃止に着手できる
  7. deleは、本番に触れない分身環境とAI解析により、これを短期間で可視化した
  8. 次フェーズでは他領域(発電・ERP等)へ拡張し、段階的停止・影響観察で安全に切除・整理していく

本レポートの構成

問い答えの所在
第1章どこまでを、どの粒度で見たのか調査の対象範囲
第2章どうやって本番に触れずに棚卸ししたのか調査手法
第3章「生きている/死んでいる」を何で判定したのか採点ロジック
第4章全体としてどうだったか結果死活内訳
第5章どの領域に余地があるのか領域別の評価
第6章では経営として何をするか提言と次フェーズ

1. 調査の対象範囲

本章の問い: 今回の資産評価は、未来明るく電力のどの範囲を、どの粒度で見たのか。

対象とした4領域+共通基盤

未来明るく電力の基幹システムのうち、今回は業務の中核である以下の4領域と全社共通基盤を対象とした。発電設備制御・ERP(会計/人事/資材)・情報系(BI/データ基盤)は今回のスコープ外とし、次フェーズ(全社スクリーニング)で扱う。

領域名称主なサブシステム(コード)
A料金・顧客情報(CIS)検針管理(KN)、料金計算(RY)、収納・消込(SU)、契約管理(KY)、顧客対応CRM(CS)
B送配電設備管理設備台帳(SB)、工事管理(KJ)、保全計画(HZ)、図面・GIS(GS)、停電管理(TD)
C需給運用・給電需給計画(JK)、給電指令(KD)、系統運用(KT)、予備力管理(YB)
D電力取引・託送卸電力取引JEPX(TR)、インバランス精算(IB)、託送業務(TS)、スイッチング(SW)、需要予測(YS)
共通全社基盤マスタ管理(MS)、帳票基盤(CH)、連携基盤ESB(RN)、認証・権限(NB)、バッチ基盤(BT)

各領域が扱う代表的なデータ(テーブル)は次の通り。

領域代表テーブル業務上の意味
AKENSHIN(検針実績)、KEIYAKU(契約マスタ)、RYOKIN(料金計算結果)、NYUKIN(入金明細)検針→料金確定→請求→収納の一連
BSETSUBI(設備台帳)、KOUJI(工事管理)、TEIDEN(停電実績)設備の資産・工事・停電の記録
CJUKYU(需給計画)、KYUDEN(給電指令log)需給バランスと給電指令の実行記録
DTORIHIKI(取引約定)、IMBALANCE(インバランス)、TAKUSO(託送料金)卸取引・インバランス精算・託送

調査の粒度 — 依存グラフ596本

今回構築した全体地図(依存グラフ)は、呼び出し関係に名前が登場する実体596本で構成される。

区分本数割合内容
ソース提供397本66.6%実物のソースコードが提供され、中身まで解析・採点できた
呼び出し痕跡から復元199本33.4%呼び出し命令やバッチ定義に名前は登場するが、実物のソースが見つからない。存在・つながり・役割を推定して地図上に補完した
合計596本100%依存エッジ 389本
  • 採点(死活判定)は、実物のあるソース提供397本を対象とした。復元199本は中身が確認できないため、「存在する/どことつながっている/どんな役割か」の推定までにとどめ、死活採点からは除外している
  • 依存エッジ389本は、プログラム間の呼び出しとプログラム-テーブル間の読み書きを含む配線の総数である

復元199本(全体の1/3)が意味すること

呼び出しの記述に名前が載っているのに実物が見つからない — これは「本番で参照されているのに、正本のソースがどこにあるか誰も把握していない」資産が3本に1本存在することを意味する。制度改正で急ぎ改修が必要になったとき、まずソース探しから始めなければならない。構成管理(正本の一元化)の不在が、電力事業の制度対応の俊敏性を直接損なっている。

今回の対象外(次フェーズで扱う)

以下は今回のスコープ外である。全社スクリーニング(第2クール)で、同じ手法を横展開して評価する。

対象外理由・次フェーズでの扱い
発電設備制御(DCS/SCADA等)制御系はネットワーク・可用性要件が異なるため別評価。基幹系との連携点(需給計画への実績取込)のみ今回把握
ERP(会計・人事・資材)パッケージ主体で棚卸し手法が異なる。連携基盤(RN)経由の接点は共通基盤側で把握済み
情報系(BI・データ基盤)基幹系のデータを二次利用する下流。基幹の整理後に評価する方が効率的
次世代検針基盤(HES/MDMS)の内部スマートメーターのデータ収集基盤は比較的新しく、レガシー棚卸しの優先度が低い。検針管理(KN)との連携点のみ今回把握

なぜこの範囲から始めたか

領域A〜Dは、発送電分離後の未来明るく電力の「送配電・小売・取引」を支える中核であり、かつメインフレーム時代(COBOL/JCL)からクライアントサーバー時代(VB6/.NET)までのレガシーが層状に堆積している領域である。ここを起点に選ぶことで、(1)最もレガシー債務が重い請求系の実態を把握でき、(2)止められない給電系が本当に健全かを確認でき、(3)確立した手法をそのまま全社へ横展開できる。「まず一番見えていない中核を、証拠つきで見えるようにする」——これが対象選定の意図である。

技術構成の実態 — 層状に積み上がったレガシー

今回対象とした資産の技術構成は、未来明るく電力が制度改正のたびに増改築を重ねてきた歴史をそのまま反映している。世代の異なる技術が層状に積み重なり、それぞれに固有のリスクを抱える。

世代主な技術主に担う領域抱えるリスク
メインフレーム時代(1990年代〜)COBOL / JCL / PL/SQL料金計算(RY)・収納(SU)などの請求系(A)、月次バッチ読み書きできる要員の高齢化・退職。ミドルウェア・ランタイムのEOL
クライアントサーバー時代(2000年代〜)VB6 / VB6 Form / VB.NET / C#検針(KN)・契約(KY)・CRM(CS)、設備台帳(SB)・工事(KJ)(B)VB6 IDE/ランタイムの保守性、サードパーティ部品の入手性
Web/市場対応時代(自由化以降)Java / 一部.NET電力取引(TR)・託送(TS)・スイッチング(SW)(D)比較的新しいが、旧制度対応の残置が混在
横断Shell / Windows Batch / SQL Scriptバッチ基盤(BT)、領域間連携実行契機・ジョブ依存がスクリプトに埋もれ可視性が低い

電力レガシー3つの時限爆弾

(1) COBOL要員の枯渇: 料金計算・収納の中核はCOBOL資産。読み書きできる要員が市場から消えつつあり、料金改定や制度対応のたびに対応リスクが高まる。 (2) ミドルウェア/ランタイムのEOL: 世代の古い実行基盤が相次いでサポート終了を迎え、延長サポート費が固定費化する。 (3) 制度対応の俊敏性喪失: 発送電分離・容量市場・需給調整市場・インバランス制度・スイッチングなど、制度改正は今後も続く。依存が不可視なままでは、そのたびに影響調査で時間を失う。 これらは「今すぐ壊れる」問題ではないからこそ先送りされやすく、先送りするほど対応コストが膨らむ。

なお、詳細な言語別のコード規模・世代別の分布は、全社スクリーニング(第2クール)で全領域を横断集計したうえで定量化する。本PoCの主眼は「量」ではなく「どれが生きているか(死活)」の判定にある。


2. 調査手法 — 本番に触れずに棚卸しする

本章の問い: 稼働中の基幹システムに一切触れず・止めずに、どうやって「何が生きているか」を確かめたのか。

deleが行ったことを一言で言えば、「層状に積み上がった数十年分のブラックボックスを、本番に指一本触れずに開けて、中身を並べて見せた」である。手順は次の3ステップ。

Step 1: 本番に触れない「分身環境」を再現する

提供いただいたソースと依存の手がかりだけを頼りに、本番と同じ構造のデータベース・実行環境をdele社内に再構築した。

  • 本番系統の運用に影響を与えないよう、dele側に隔離した分身環境を構築。ここでなら「このプログラムを止めたらどうなるか」という実験を、業務リスクゼロで何度でも行える
  • 電力の基幹系は24時間365日の給電・検針・託送を止められない。だからこそ本番に触れないことが絶対条件であり、分身環境はそのための土台である

工場に例えるなら、「設計図が一部欠けた数十年物の設備を、図面と部品リストだけから別の場所に組み上げ、動く状態にした」ということである。

Step 2: 欠けた設計図を、AIで依存グラフ上に復元する

提供資産だけでは全体像は見えなかった。

ここで当然の疑問が湧く——「実物が提供されていないのに、なぜ『ある』と分かるのか?」 種明かしはシンプルで、プログラムは互いに『名前』で呼び合っているからである。提供されたソースやバッチ定義には「次に◯◯を実行せよ」「△△を呼び出せ」という命令が無数に書かれている。この「呼び出される側の名前」をAIですべて拾い集めた結果、重複を除いて596本のプログラム名が地図上に現れた。ところが、その名前に対応する実物が提供資産の中に見つかったのは**397本(66.6%)だけ。残る199本(33.4%)は「呼び出し命令に名前は載っているのに、本人がどこにもいない」**状態だった。

deleはここにAIを投入した。

  • 提供された全ソースをAIに読み込ませ、「このプログラムは何を読み、何を計算し、どこに書き込むのか」を1本ずつ復元した
  • 実物がない199本は、呼び出し元の記述・バッチの実行順序・DBアクセスの痕跡を手がかりに、AIが役割とつながりを推定して依存グラフ上に補完した
  • COBOLが参照する共通部品(コピーブック)やDBテーブルの構造も、コード中の定義文・SQL文から再構成した

人手であれば熟練技術者が年単位を要する読解・復元作業を、短期間で完了している。COBOL・VB6を読める要員が枯渇しつつある電力業界において、この「AIによる読解の肩代わり」が本手法の核心である。

Step 3: 実行ログと突き合わせ、5つの証拠で採点する

再現した依存グラフと、2026年4〜5月の実行ログを突き合わせ、全プログラム・全テーブルのつながり(エッジ389本)を「配線図」として可視化した。人間ドックに例えるなら、問診ではなく全身CTスキャンを撮ったということである。

そのうえで、ソース提供397本を1本ずつ5つの証拠で100点満点採点し、点数で推定現役/推定休眠/推定死亡に3分類した。判定は感覚ではなく、証拠に基づく点数である(採点ロジックの詳細は第3章)。

一般的な調査手法との違い

観点一般的な調査(ヒアリング中心)dele(実物と実行ログで解析)
情報源担当者の記憶・既存ドキュメント実ソース・実行ログそのもの
仕様書がない場合「不明」のまま残るAIがコードを読んで役割を復元する
「使っていない」の根拠「たぶん使っていないと思う」(証言)実行ログに登場しないことを確認(証拠)
依存関係の把握主要連携のみ・人の記憶頼み596本・389エッジを機械的に抽出・可視化
成果の性質報告書(読んで終わり)分身環境・依存グラフ・採点基盤が残り、次フェーズの実行装置になる

情シスが影響範囲を見通せない3種類の「見えない依存」

依存グラフを再構成する過程で、ソースコードを素直に読むだけでは追えない「隠れた依存」が3種類あることが確認された。これらを可視化できたことが、死活判定の精度を支えている。

種別どう隠れているか電力レガシーでの現れ方
(1) ファイル/中間データ経由の暗黙連携バッチが中間ファイルを介してデータを受け渡し、プログラム同士の依存がソースに明示されない月次料金バッチや設備台帳更新で、COBOL間がワークファイル経由でつながる
(2) 共有テーブルによる暗黙結合複数サブシステムが同一テーブルを読み書きし、事実上のメッセージ交換をしているRYOKIN・KEIYAKUを検針(KN)・料金(RY)・収納(SU)が共有。連携基盤(RN)経由の状態テーブル
(3) Shell/JCL経由のCOBOL⇔VB6間接結合直接呼び出しはないが、バッチ/ジョブ定義が両者を順に起動する月次請求バッチが、COBOL(料金計算)とVB6(帳票/画面連携)をジョブ列で連結

これらは「ソースにCALLが書かれていない」ため、静的解析だけでは途切れて見える。deleはバッチ/JCL定義とDBアクセスの痕跡を突き合わせることで、この途切れを補完した。推定死亡の判定で「孤立」を主張するには、この3種類の見えない依存をすべて潰したうえで、なお誰ともつながっていないことを確認する必要がある。孤立判定の確度は、この補完作業の徹底度に依存する。

解析で見つかった象徴的な例

料金計算(RY)系のあるCOBOLプログラム(数百行)をAIで解析したところ、その処理の正体は、月次の料金明細ワークを全件ループしながら1件ずつ集計・更新するだけの内容であり、現代の技術なら1本のSQLに置き換えられることが判明した。20年以上前の技術制約の中で数百行を費やして書かれた処理が、今では数行で済む。

この種の「実は簡単に置き換えられる資産」がレガシー請求系に多数眠っている。これは(a)モダナイズのコストが従来見積より大幅に小さくなりうること、(b)COBOL要員に依存せずAIの助けで読解・変換できることを示唆する。「全面書き換えに数年」という前提そのものが、AI解析によって崩れる——次フェーズのモダナイズ方針の根拠の一つである。

提供資産のカバレッジ分析

依存グラフ596本のうち、実物のソースが提供されたのは397本(66.6%)。残る199本(33.4%)は、呼び出しの記述に名前が登場するのに実物が見つからない。この199本は、次の手がかりから役割とつながりを推定して地図上に補完した。

  • 呼び出し元の記述: どのプログラムから、どんな引数・文脈で呼ばれているか
  • バッチ/JCLの実行順序: どのジョブ列の、どの位置で起動されるか
  • DBアクセスの痕跡: 呼び出し前後で読み書きされるテーブルから、役割を推定

この「名前は残っているが実物がない」状態は、構成管理(正本の一元化)の不在の直接の証拠である。全社スクリーニングで対象を広げれば、同様に実物の所在が分からない資産がさらに現れる可能性が高い(第6章 提言2)。

従来の全面書き換えとの違い

レガシー刷新というと「全面書き換え」を思い浮かべがちだが、deleのアプローチは前提が異なる。

観点従来の全面書き換えdele(AI駆動・死活起点)
起点いきなり全部を対象に見積もるまず死活を可視化し「そもそも必要か」を判定
不要資産の扱い書き換え対象に含めてしまう書き換えずに廃止(Retire)。工数を最初に圧縮
COBOL/VB6読解熟練要員が1行ずつ読む(年単位)AIが読解・役割復元を肩代わり(短期間)
進め方数年規模の一括刷新領域単位・段階的。並行稼働で安全に切替
成果の残り方報告書分身環境・依存グラフ・採点基盤が次フェーズの実行装置として残る

要点は、**「残すものだけを、必要なものだけ改善する」**という順序である。まず死んでいる資産を切り、次に残すと決めたものだけをAIの助けで高速にモダナイズする。COBOL要員の枯渇が進む電力業界では、この「AIが読解を肩代わりする」ことが、モダナイズを現実的なコスト・期間に収める鍵となる。

本手法の限界と、その手当て

正直に書いておくべき限界が3つある。いずれも「知らないまま進める」のではなく、手当てを設計済みである。

限界手当て
復元199本は、中身までは分からない(分かるのは存在・呼ばれ方・データの流れ・推定される役割まで)削減の可否判断に必要なのは中身ではなく「使われているか・何とつながっているか」であり、それは判定できる。残すと決めたものは次フェーズでソースの所在確認・追加提供を依頼する(構成管理導入がまさにこのための施策)
推定死亡にも誤りの可能性はある(プログラム間に人間の運用手順が挟まる業務では、つながりが途切れて見えるケースがある)止め方で担保する。即削除ではなく「段階的停止+影響観察」で進め、問題が出れば即座に戻す。判定を過信しない運用設計にしている
観測期間は2ヶ月(年次料金改定・容量市場の年間処理・災害時の縮退運用系など、稼働頻度が極端に低い処理は観測期間外に動きうる)実行ログの継続観測で検証範囲を段階的に広げる。低頻度でも「止めてはいけない」処理は、実行契機(JCL/スケジューラ登録)の有無で救済し、機械的に死亡と断じない

3. 死活推定の採点ロジック — 5つの証拠・100点満点

本章の問い: 「生きている/休眠している/死んでいる」を、何を根拠に、どう判定したのか。

判定は感覚ではない。プログラム1本ごとに、5つの証拠を集めて100点満点で採点し、点数で3分類する。すべて2026年7月4日時点の推定であり、稼働の確証ではない。

5つの証拠と配点

#証拠最大点何を見るか電力事業での意味
1実データの動き30読み書きするテーブルに実データが動いているかKENSHIN・RYOKIN・NYUKIN等に直近の実績があるか
2つながり25依存グラフで他プログラムと呼び合っているか孤立している=誰からも呼ばれない可能性
3実行のきっかけ20日次/月次/随時など実行契機が運用に組み込まれているかJCL・スケジューラ・バッチ基盤(BT)への登録有無
4仕事量15テーブルへの読み書き操作の数実質的な処理を担っているか、空手形か
5仕様書10設計意図が文書として維持されているか機能仕様書246点との紐付き

証拠1(実データの動き)と証拠2(つながり)に配点を厚くしているのは、「実際にデータが動いていて、かつ他とつながっている」ことが、稼働の最も強い証拠だからである。逆に、この2つがともに欠けるプログラムは、死亡の疑いが濃い。

各証拠の見方をもう少し具体的に示す。

証拠高得点になる状態低得点になる状態電力事業での判断上の注意
1 実データの動きKENSHIN/RYOKIN/NYUKINに直近2ヶ月の更新がある読み書きするテーブルがない、または更新が止まっている参照専用化した現役処理を過小評価しないよう、証拠2〜3で補正
2 つながり複数プログラム/バッチから呼ばれ、下流にも渡す依存グラフ上で孤立、または片方向のみ「見えない依存」3種類を潰したうえで孤立を確定
3 実行のきっかけ日次/月次JCL・スケジューラ・バッチ基盤に登録どの実行契機にも登録がない年次/制度改正時/災害時のみの契機は、頻度が低くても加点(救済)
4 仕事量読み書き操作が多く、実質的な処理を担う操作がほぼなく空手形少量でも重要処理(インバランス精算等)は他証拠で補正
5 仕様書機能仕様書と紐付き、設計意図が維持仕様書なし、ソース読解に依存仕様書の有無は補助証拠。欠落だけで死亡とはしない

判定の閾値

合計点判定意味
50点以上推定現役実データ・つながり・実行契機がそろっており、稼働している蓋然性が高い
20〜49点推定休眠つながりはあるが、動いた形跡が乏しい。「動いているかもしれない」だけで維持されている疑い
20点未満推定死亡データも動かず、つながりもなく、実行契機もない。稼働の形跡が総じて確認できない

必ず「推定」と読む

この判定はあくまで2026年7月4日時点・証拠期間(2026年4〜5月)の範囲内での推定である。とりわけ電力事業では、年次・制度改正時・災害時にしか動かない「低頻度だが不可欠」な処理があり、観測期間外の稼働を排除できない。だからこそ、廃止は即削除ではなく段階的停止+影響観察で進める(第6章)。

採点の例(illustration)

採点がどう働くかを、代表的な例で示す(プログラム名は本サイトの表記に合わせた架空名)。

  • RY0142(料金計算・従量本計算) — 読み書きするRYOKIN・KENSHINに直近2ヶ月で実データが動き、収納(SU)・帳票(CH)から呼ばれ、月次JCLに登録済み。推定現役(92点)
  • KNB210(旧検針取込・特定料金メニュー向け) — つながりは残るが、実行ログに一度も登場せず、読み書きの実データも動いていない。スマートメーター移行で役割を終えた疑い。推定休眠(34点)
  • SB330S(設備台帳・旧様式変換) — どのテーブルも読み書きせず、誰からも呼ばれず、実行契機もない。同名の新版が別フォルダに存在する重複旧版。推定死亡(11点)

このように、同じサブシステムの中でも1本ずつ点数が違う。だからこそ「領域まるごと残す/切る」ではなく、「この1本は切れる、この1本は残す」という粒度の経営判断が可能になる。プログラム1本ごとの採点内訳はプログラム別分析で確認できる。

採点の内訳がどう積み上がるかを、上記3例の証拠別スコアで示す(illustration)。

証拠(最大点)RY0142(現役)KNB210(休眠)SB330S(死亡)
実データの動き(30)2860
つながり(25)24142
実行のきっかけ(20)1860
仕事量(15)1452
仕様書(10)837
合計(100)92 → 現役34 → 休眠11 → 死亡

注目すべきは、SB330S(死亡)が仕様書だけは7点取っている点である。「仕様書は残っているのに、実物は動いていない」——これは重複旧版に典型的なパターンで、文書だけを見ると生きているように誤認しやすい。5証拠を合算するからこそ、文書の存在に惑わされず死活を見抜ける。


4. 結果 — 全体分布と非稼働率

本章の問い: 採点397本は、全体としてどういう状態だったか。

全体分布

判定本数割合状態
推定現役269本67.8%実データ・つながり・実行契機がそろい、稼働の蓋然性が高い
推定休眠82本20.7%つながりはあるが動いた形跡が乏しい。維持継続の要否を要判断
推定死亡46本11.6%稼働の形跡が総じてなく、廃止の第一候補
合計397本100%
  • 推定非稼働率 = 32.2%(推定休眠82+推定死亡46=128本 / 397本)
  • 言い換えると、採点した3本に2本は現役だが、残り1本は稼働の証跡が確認できない

この32.2%は「即座に3割削れる」という意味ではない

非稼働率32.2%は削減・整理の余地の目安であり、そのまま廃止できる数ではない。確度が高いのは推定死亡46本(11.6%)で、ここは根拠が明確なため段階的停止に着手できる。推定休眠82本は、実行ログの継続観測と現場確認で確度を高めてから判断する。まず46本、次に82本の精査という二段構えで進める。

非稼働は領域によって偏在している

重要なのは、この32.2%が全領域に均等に散らばっているわけではないという点である。

  • 給電系(領域C)はほぼ全部が現役(非稼働率1.9%)。止められない領域は、無駄なく生きている
  • 請求系(領域A CIS)と共通基盤に非稼働が集中(それぞれ41.6%・42.5%)

つまり削減余地は「請求系と基盤」に偏っている。切るべき場所と、守るべき場所が、データではっきり分かれている——これが今回の最大の発見である。領域別の詳細は第5章で述べる。

主要ハブ — 変更影響が集中する結節点

依存グラフ上で、多くのプログラムから読み書きされる「ハブ」を特定した。これらは変更時の影響範囲が広く、モダナイズの際に慎重な扱いを要する。

ハブ(テーブル/基盤)領域役割注意点
RYOKIN(料金計算結果)A検針→料金→請求→収納の中継点料金改定のたびに多数のプログラムが参照。制度対応の変更集中点
KEIYAKU(契約マスタ)A全料金・収納処理の前提スイッチング(小売切替)・契約変更が全体に波及
連携基盤ESB(RN)共通領域間・外部(市場/託送)連携のハブここが詰まると領域をまたいだ処理が停止
マスタ管理(MS)共通全社共通コード・供給地点マスタ呼称・コード体系の不統一がここに現れる

ハブへの変更影響は影響シミュレーションで対話的に確認できる。

処理パターンの分類

採点397本を処理の型で分類すると、レガシー請求系に典型的な5つのパターンに大別できる。パターンごとに削減・統合のアプローチが異なる。

パターン概要主に見られる領域削減・統合の方向性
A: 取込・変換外部データ(検針・市場・託送)の受信 → DBへ取込A(検針)・D(市場/託送)得意分野別の個別処理を、定義駆動の統合エンジンへ
B: DB間データ変換テーブルA読込 → 計算 → テーブルB書込A(料金)・B(設備)共通フレームワーク化。SQL化で行数を圧縮
C: バッチ一括更新全レコードに同一操作を適用(月次リセット等)A・共通汎用バッチライブラリへ統一。多くはSQL数行に置換可能
D: 帳票生成テーブル結合・集計 → 帳票/CSV出力A(請求)・共通(帳票基盤CH)帳票エンジン共通化。旧様式帳票は廃止候補
E: マスタメンテ画面GUIによるCRUD操作A(契約/CRM)・B(台帳)画面フレームワーク化。VB6画面の操作性は維持

推定死亡・休眠は、とりわけ**パターンA(得意分野別に増殖した取込・変換)パターンD(旧様式帳票)**に集中している。これは「制度・料金メニュー・様式が変わるたびに新規プログラムを増築し、旧版を止めずに残してきた」というレガシー請求系の増殖メカニズムを、データが裏付けている。

「見えていなかった」ことの定量化

今回の可視化で初めて数字になった「見えなさ」を整理する。

指標数値意味
実物の所在が不明な資産199本 / 596本(33.4%)呼ばれているのに正本のソースがどこにあるか分からない
稼働の証跡が確認できない資産128本 / 397本(32.2%)止めていいか判断できず、維持コストを払い続けている
うち根拠が明確な推定死亡46本 / 397本(11.6%)段階的停止に着手できる確度の高い削減候補

3本に1本が「実物の所在不明」、3本に1本弱が「稼働証跡なし」——この二重の不可視が、制度対応の遅延と維持コスト高止まりの正体である。可視化はその第一歩にすぎないが、出発点なしには何も動かせない。

4-1. 推定死亡・推定休眠の内訳と根拠パターン

推定死亡46本・推定休眠82本が「なぜそう判定されたか」を、根拠のパターン別に整理する。判定は単一の理由ではなく、複数の証拠が同時に欠けていることで確定している。

推定死亡(46本)の代表的な根拠パターン

パターン何が起きているか電力レガシー特有の背景
孤立(つながりゼロ)どのプログラム・バッチからも呼ばれず、どこも呼ばない。依存グラフ上の孤立点メニューからは外されたが、モジュール本体が退避されず残置。料金メニュー改廃の名残
空ファイル・実質空ソースは存在するが、読み書きするテーブルがなく処理実体がほぼない制度対応で作りかけたまま放棄された枠、またはテンプレートの残骸
重複バージョンの旧版同名・同機能の新版が別フォルダに存在し、旧版が本番から参照されていない物理ディレクトリによるバージョン退避(例: 旧版フォルダ)。正本が確定できない構成管理の不在
実行ログ無ヒット+データ不動2026年4〜5月の実行ログに一度も登場せず、扱うテーブルにも実データの動きがない特定得意分野向け・旧料金体系向けに作られ、制度移行で役割を終えた処理

推定死亡46本は、上記のうち複数のパターンに同時に該当するものが大半である(例: 孤立かつ実行ログ無ヒット)。根拠が重層的なため、廃止の確度が高い。ただし前述の通り、廃止は段階的停止+影響観察で進める。

代表的な推定死亡の例を、根拠パターンとともに示す(プログラム名は本サイト表記に合わせた架空名)。

プログラム(架空名)領域主な根拠パターン背景の推定
SB330SB 設備台帳重複バージョン旧版+孤立台帳様式更改で新版に置換されたが旧版が退避されず残置
KNB210 の旧世代A 検針実行ログ無ヒット+データ不動スマートメーター移行前の旧検針取込。次世代検針で役割終了
CH旧様式帳票群共通 帳票基盤孤立+実行ログ無ヒット制度改正で帳票様式が変わり、旧様式出力が呼ばれなくなった
RY旧料金メニュー処理A 料金計算空/実質空+実データ不動廃止された料金メニュー向けの計算枠。契約が存在しない
BT旧ジョブ制御共通 バッチ基盤孤立+実行契機なし新バッチ基盤へ移行後、旧ジョブ制御スクリプトが残置

いずれも「作られたが、役割を終えた後も誰も止めていない」構造である。廃止によって失われる価値はなく、維持コストと依存グラフの複雑さだけが残っている——これが推定死亡の共通像である。

推定休眠(82本)の代表的な根拠パターン

パターン何が起きているか判断の注意点
つながりはあるが実行ログ無ヒット呼び出し関係は残るが、観測期間中に動いた形跡がない年次・制度改正時のみ動く処理の可能性。実行契機(スケジューラ登録)の有無で救済を検討
実データが枯れている読み書きするテーブルに直近の更新がないデータ移行後に参照専用化した/新系統に切り替わった可能性
仕様書のみ生存仕様書は残るが、コードの稼働証跡が乏しい「使うかもしれない」で維持されている塩漬け候補

推定休眠は「止めていいか判断できないから全部維持」という状態の温床である。維持コストは払い続けているのに、価値を生んでいるかが不明——ここに整理の余地がある。休眠判定の確度を上げるには、実行ログの継続観測(観測期間の延長)が最も効く。

推定死亡・推定休眠の廃止・整理の進め方

  1. プログラムの利用状態を分類する(完了 — 本PoC。推定として)
  2. 推定死亡46本を優先candidateとして整理する(完了 — 本PoC)
  3. 推定死亡から段階的停止+影響観察で廃止に着手する(次フェーズ)
  4. 推定休眠82本は実行ログの継続観測・現場確認で確度を高めてから段階的に整理する(次フェーズ)

推定死亡・休眠・重複を横断した削減候補の一覧とCSV出力は削減候補リストを参照。


5. 領域別の評価

本章の問い: どの領域に、どれだけの削減余地があるのか。守るべきはどこか。

領域別サマリー

採点397本を領域別に見ると、非稼働率は1.9%〜42.5%と20倍以上の開きがある。削減余地は請求系(A)と共通基盤に偏在し、給電系(C)は健全である。

領域採点本数推定現役推定休眠推定死亡推定非稼働率一言所見
A 料金・顧客情報(CIS)15490402441.6%レガシー請求系。削減余地が最大
B 送配電設備管理9863241135.7%台帳・図面系に旧様式の残置が多い
C 需給運用・給電5352101.9%ミッションクリティカル。健全
D 電力取引・託送52417421.2%制度で拡張、比較的新しく無駄少なめ
共通 全社基盤402310742.5%塩漬け基盤。整理効果が全社に波及
合計397269824632.2%

以下、領域ごとに所見を述べる。

領域A — 料金・顧客情報(CIS): 非稼働率41.6%

最も削減余地が大きい領域。検針(KN)→料金計算(RY)→収納・消込(SU)→請求(帳票CH)の一連を担う、未来明るく電力の請求系の心臓部であり、同時に最もレガシー債務が重い。

観点所見
技術構成料金計算・収納の中核はメインフレームのCOBOL/JCL資産。契約管理・CRMはVB6/一部Java
非稼働の要因料金メニュー・料金改定・特定契約種別ごとにプログラムを増築してきた結果、旧料金体系・旧検針方式向けの資産が「誰も止めていない」まま残置
スマートメーターの影響次世代検針(HES/MDMS)への移行で、旧検針取込(KN系)の一部が役割を終えつつある。推定休眠・死亡の一定数はこの移行の名残
制度対応リスク料金改定のたびにRYOKIN・KEIYAKUハブ周辺の広範な改修が必要。COBOL要員の枯渇で対応が後手に回る懸念
総合評価推定死亡24本は段階的停止の第一候補。推定休眠40本はスマメ移行状況と突き合わせて整理。中核の現役COBOL(RY/SU)は要員リスクの観点でモダナイズ検討対象

領域Aは「削減余地が最大」であると同時に「制度対応の俊敏性を最も損なっている」領域でもある。ここを整理・近代化することが、料金改定対応のリードタイム短縮に直結する。

サブシステム別に見ると、非稼働の偏りと処置方針は次のように整理できる。

サブシステム技術状態の傾向推奨処置
検針管理(KN)VB6/COBOLスマメ移行で旧検針取込に休眠・死亡が集中旧取込はRetire、現役はHES/MDMS連携へModernize
料金計算(RY)COBOL/JCL中核は現役だがCOBOL要員リスク大。旧料金メニュー処理に死亡旧処理Retire、中核はModernize(要員リスク)
収納・消込(SU)COBOL現役中核。入金明細(NYUKIN)と密結合Keep→段階的にModernize/Wrap
契約管理(KY)VB6/一部Javaスイッチング対応で拡張。旧契約種別に休眠現役Keep、旧種別処理を精査しRetire
顧客対応CRM(CS)VB6画面系。操作性維持が要件画面フレームワーク化でRefactor/Modernize

To-Beの方向性: 得意分野別・料金メニュー別に増殖した取込・計算処理を、定義駆動の統合基盤へ集約する。料金改定を「プログラム新規開発」から「定義ファイルの追加・変更」に変えることで、制度対応のリードタイムを大幅に短縮できる。ただし料金計算・収納の中核は停止リスクが高いため、並行稼働・差分検証で慎重に進める。

領域B — 送配電設備管理: 非稼働率35.7%

設備台帳(SB)・工事管理(KJ)・保全計画(HZ)・図面/GIS(GS)・停電管理(TD)を担う。設備の長寿命に合わせてシステムも長期運用され、旧様式変換の残置が多い。

観点所見
技術構成台帳・工事はVB6/クライアントサーバー主体。図面/GISは専用パッケージ連携。停電管理はレジリエンス上の重要系
非稼働の要因設備台帳の様式変更・GIS更改に伴う旧様式変換プログラムが、新様式移行後も残置。SB330Sのような重複旧版が散見される
レジリエンスの論点停電管理(TD)は災害時に稼働する重要系。観測期間中の実行頻度が低くても、実行契機があるものは休眠・死亡と即断しない
総合評価推定死亡11本は旧様式変換の残骸が中心で廃止しやすい。停電管理(TD)は「低頻度だが不可欠」の代表であり、慎重に救済判定

サブシステム別の傾向は次の通り。

サブシステム状態の傾向推奨処置
設備台帳(SB)様式更改の旧変換に重複旧版・死亡が集中旧版Retire、現役はマスタ統一でRefactor
工事管理(KJ)現役中心。設備台帳(SETSUBI)・工事(KOUJI)と連携Keep→Modernize検討
保全計画(HZ)定期保全の計画系。現役Keep
図面・GIS(GS)専用パッケージ連携。旧様式取込に休眠旧取込Retire、連携部はWrap
停電管理(TD)災害時の重要系。低頻度でも不可欠Keep+レジリエンス堅牢化(削減対象外)

To-Beの方向性: 設備の長寿命に合わせ、台帳・GISは「長く正確に保つ」ことが最優先。旧様式変換の残骸(Retire)を除去して見通しを良くしつつ、停電管理(TD)は災害対応の観点で監視・冗長化を強化する。

領域C — 需給運用・給電: 非稼働率1.9%(健全)

需給計画(JK)・給電指令(KD)・系統運用(KT)・予備力管理(YB)を担う、24時間365日止められないミッションクリティカル領域

観点所見
健全性採点53本中、推定死亡0本・推定休眠1本。ほぼ全プログラムが現役で、無駄がほとんどない
なぜ健全か常時稼働・高可用が絶対要件のため、使われないプログラムを抱える余地がそもそもない。運用が資産を規律している
経営上の意味この領域は削減対象ではなく「守る・堅牢化する」対象。レジリエンス(災害・広域停電対応)の観点で、依存関係の可視化と障害波及範囲の縮小に投資すべき
総合評価現状維持+堅牢化。切除ではなく、監視・冗長化・依存整理で「止まらなさ」をさらに高める

**「止められない領域はちゃんと生きている」**という経営メッセージの、そのものの証拠がこの1.9%である。削減の話をここに持ち込む必要はない。

領域D — 電力取引・託送: 非稼働率21.2%

卸電力取引JEPX(TR)・インバランス精算(IB)・託送業務(TS)・スイッチング(SW)・需要予測(YS)を担う。電力自由化・市場制度の整備に合わせて比較的新しく構築された部分が多く、非稼働率は中程度。

観点所見
技術構成市場・託送連携はJava/一部.NET主体で比較的新しい。需要予測(YS)は分析系との接点
非稼働の要因制度移行(旧インバランス制度→新制度、容量市場・需給調整市場の追加)に伴う旧処理の残置。TR/IB周辺に旧約定処理の休眠が見られる
制度対応の勘所インバランス精算(IB)の誤りは託送・市場取引に直結する。現役処理の正確性が最優先で、休眠の整理は慎重に
総合評価推定死亡4本は旧制度対応の残骸。推定休眠7本は市場制度の移行状況と突き合わせて整理。全体としては比較的健全

共通基盤 — 全社基盤: 非稼働率42.5%(整理効果が全社に波及)

マスタ管理(MS)・帳票基盤(CH)・連携基盤ESB(RN)・認証/権限(NB)・バッチ基盤(BT)を担う。全領域が依存する土台でありながら、非稼働率は最も高い。

観点所見
非稼働の要因帳票基盤・バッチ基盤に、旧様式帳票・旧バッチジョブの残置が多い。マスタ管理には使われないコード変換ユーティリティが堆積
なぜ整理効果が大きいか共通基盤は全領域から参照される。ここを整理すると、依存グラフ全体の見通しが改善し、他領域の変更影響調査も軽くなる
ハブの論点連携基盤ESB(RN)・マスタ管理(MS)はハブ。現役部分は慎重に、休眠・死亡の周辺ユーティリティから整理する
総合評価推定死亡7本・休眠10本は周辺ユーティリティが中心で着手しやすい。ハブ本体は「包む(Wrap)・改善(Refactor)」で段階的に

サブシステム別の傾向は次の通り。

サブシステム状態の傾向推奨処置
マスタ管理(MS)供給地点・共通コードのハブ。使われないコード変換が堆積周辺Retire、本体はRefactor(コード体系統一)
帳票基盤(CH)旧様式帳票の残置が多い旧様式Retire、帳票エンジン共通化でModernize
連携基盤ESB(RN)領域間・外部連携のハブ。現役Keep→Wrap(I/F近代化)
認証・権限(NB)全社横断の基盤。現役Keep
バッチ基盤(BT)旧ジョブ制御の残置。現行基盤へ移行済み旧制御Retire、実行契機の可視化

To-Beの方向性: 共通基盤は全領域が依存する土台のため、**「周辺の死んだユーティリティから除去し、ハブ本体は包んで守る」**のが定石。マスタ管理のコード体系統一(呼称・供給地点の名寄せ)は、領域をまたいだデータの突合精度を上げ、経営情報の提供速度改善にも波及する。

領域別まとめ — 切る場所と守る場所

切りやすく効果が大きい: 共通基盤(42.5%)・料金CIS(41.6%)・送配電(35.7%)の推定死亡から着手。 守り・堅牢化する: 需給・給電(1.9%)。ここは削減ではなくレジリエンス投資。 慎重に整理: 電力取引・託送(21.2%)。制度対応の正確性を最優先に。


6. 経営提言と次フェーズ・ロードマップ

本章の問い: この評価結果を受けて、経営として何を、どの順番で実行するか。

処置方針 — 5つの分類(Disposition)

全プログラムを、以下5つの処置方針に振り分けて実行する。「まとめて刷新」ではなく、1本ずつ最適な扱いを選ぶのが要点である。

処置判断基準未来明るく電力での典型例
Retire(廃止)孤立・空・重複旧版・実行ログ無ヒットが重なる推定死亡旧料金メニュー向け処理(A)、旧様式変換の残骸(B/共通)
Keep(現状維持/堅牢化)安定稼働・停止リスクが高い中核。変化要求が少ない需給・給電の現役処理(C)、停電管理の重要系(B)
Wrap(包む)中身は触らずI/Fだけ近代化。市場/託送/外部連携が必要連携基盤ESB(RN)経由の外部接続、残置COBOLのAPI化
Refactor(改善)構造的課題(重複・命名不整合)の是正。ロジックは不変マスタ管理の統一、共通ユーティリティの集約
Modernize(刷新)変化頻度が高い/技術リスクが高い/コスト削減効果が大きい料金計算・収納のCOBOL(A)、次世代検針連携

処置方針の全体像は2軸で粗分類できる。

  • 停止リスク高 × 変化頻度高 → Modernize最優先(料金CIS中核)
  • 停止リスク高 × 変化頻度低 → Keep/Wrap(給電系・停電管理)
  • 停止リスク低 × 変化頻度低 → Retire(推定死亡)
  • 停止リスク低 × 変化頻度高 → Refactor→Modernize(共通ユーティリティ)

提言1: 推定死亡46本の廃止に着手する

最も確度が高く、最初に着手すべき施策。

  • 対象: 推定死亡46本(孤立・空・重複旧版・実行ログ無ヒットが重なるもの)
  • 方式: 即削除ではなく 段階的停止+影響観察。まず本番からの参照を切り、一定期間問題が出ないことを確認してから廃止確定。問題が出れば即座に戻す
  • 効果: 管理対象を確実に圧縮し、依存グラフの見通しを改善。「切れるところから切る」外科手術の初手
  • 優先順位: 共通基盤・料金CISの推定死亡から(整理効果が全社に波及し、かつ停止リスクが低い)

提言2: 構成管理(正本の一元化)を導入する

復元199本(全体の1/3)が「実物のありかが分からない」状態であることは、制度対応の俊敏性を直接損なう根本課題である。

  • 対象: 本番稼働バイナリと提供ソースの照合による正本確定、バージョン管理(Git等)の導入、物理ディレクトリ退避による重複旧版のアーカイブ化
  • 効果: 「本番で動いているのはどれか」に即答できる状態を作る。制度改正時に「まずソース探しから」という無駄を解消
  • 位置づけ: 廃止・モダナイズの前提整備。これがないと「残すと決めたもの」の改修すら安全に始められない

提言1の実行手順(Phase 0)

推定死亡の廃止は、リスクを抑えるため次の順で進める。

  1. 対象確定: 推定死亡46本のうち、共通基盤・料金CISの「孤立+実行ログ無ヒット+重複旧版」が重なるものを最初のバッチとして選ぶ(停止リスク最小)
  2. 見えない依存の再確認: ファイル経由・共有テーブル・Shell/JCL経由の3種類の隠れた依存を再点検し、本当に誰ともつながっていないことを確認
  3. 参照の切り離し: 本番からの起動・参照を停止(削除ではなく無効化)
  4. 影響観察: 一定期間(月次処理を1〜2サイクル含む)、業務・後続処理に問題が出ないか観察
  5. 廃止確定 or 復帰: 問題がなければ廃止確定・アーカイブ化。問題が出れば即座に復帰し、休眠へ再分類

この「段階的停止+影響観察」は、電力の基幹系で絶対に必要な安全弁である。判定を過信せず、いつでも戻せる状態を保ったまま切る

提言3: 全社スクリーニング(第2クール)を実行する

今回の手法(分身環境・依存グラフ・5証拠採点)は、そのまま他領域に向けられる「全身スキャナー」として完成している

  • 対象: 今回スコープ外とした発電設備制御・ERP・情報系・次世代検針基盤内部
  • 進め方: 全領域を広く簡易採点(血液検査相当)し、削減余地とリスクを「ヒートマップ」で可視化。異常が出た領域を精密採点(A〜D同等)する2段階アプローチ
  • 効果: 領域A〜Dで確立した装置を再利用するため、2回目以降はより短期・低コスト・高精度で進む。全社の削減余地を経営が一望できる

ヒートマップは領域ヒートマップ、全社の把握状況は全社システム資産マップで継続的に更新する。

次フェーズの進め方 — 安全に解体し、置き換える

現行システムを一括置換するのではなく、領域単位で切り出し、旧環境と新環境を並行稼働させながら出力の一致を検証する段階的移行を基本とする。電力の基幹系は止められないため、この「安全第一」の方式が前提となる。

  1. 領域(またはサブシステム)ごとに切り出す
  2. 旧環境と新環境を並行稼働させる
  3. 入出力結果を比較する(差分検証)
  4. 差異を検証し、問題なければ段階的に切り替える(段階移行・安全な切替)
  5. 問題が発生した場合は即座に旧環境へ戻す(ロールバック可能)

ロードマップ

Phase 0 ・ 即時・1〜2ヶ月

見える化 + 即座の切除

構成管理導入(正本確定・Git・重複アーカイブ化)→管理対象の明確化 / 推定死亡46本の段階的停止に着手→確度の高い削減の初手 / 依存グラフ・影響シミュレーションの運用開始→切っていいかの判断材料

Phase 1 ・ 2〜4ヶ月目

全社スクリーニング + 追加整理

全社人間ドック(発電/ERP/情報系等の簡易採点)→ヒートマップで全体を俯瞰 / 推定休眠82本の精査(実行ログ継続観測・現場確認)→整理対象の確度向上 / 切除順序の優先度決定→経営判断材料の提示

Phase 2 ・ 5ヶ月目〜

統合・モダナイズ(残すものだけ)

料金CIS中核(COBOL)のモダナイズ検討→要員リスク・制度対応俊敏性の改善 / 共通基盤(帳票/バッチ/マスタ)の整理・集約→全社の見通し改善 / 需給・給電(C)の堅牢化→レジリエンス投資(削減ではない)

処置方針別・領域別の実行計画はロードマップ、制度対応の観点はコンプライアンスで継続的に管理する。

意思決定のタイムライン

経営として「どこから切るか」を決めるための時間軸は次の通り。

時期意思決定・マイルストーン内容
2026年7月資産評価PoC完了・次フェーズ開始本レポートを起点に、構成管理導入と推定死亡の段階的停止に着手
2026年9月ヒートマップ完成全社スクリーニングで「削減可能率 × リスク」を可視化。「どこから切るか」の材料が揃う
2026年10月切除順序の意思決定ヒートマップを基に、経営が切除順序(緊急度・重要度・リスク)を決定
2026年12月中期経営計画への反映削減・モダナイズ計画を中期経営計画に織り込む
2027年1月本格的な実行フェーズへ意思決定に基づき、段階的な切除・整理・モダナイズを本格実行

2026/7

資産評価PoC完了→次フェーズ開始

構成管理 + 推定死亡の段階停止

2026/9

ヒートマップ完成

どこから切るかの経営判断材料が揃う

2026/10

切除順序の意思決定

2026/12

中期経営計画へ反映

2027/1〜

本格的な削減・モダナイズ実行フェーズ

評価指標(KPI) — 何を測って進捗を管理するか

削減・整理は「本数を減らすこと」自体が目的ではない。維持コスト・制度対応力・レジリエンスの改善を測る。

分類指標現状(推定)目標の方向
健全性推定非稼働率32.2%(領域偏在)推定死亡の廃止で段階的に低減
見える化正本が確定した資産の割合実物不明199本(33.4%)構成管理導入で100%に近づける
俊敏性変更影響範囲の特定時間依存不可視で長時間依存グラフ運用で短縮
要員リスクCOBOL中核処理のモダナイズ率未着手要員枯渇前に段階的にModernize
レジリエンス給電・停電系の依存可視化・冗長化部分的重要系の障害波及範囲を縮小

主なリスクと対策

リスク内容対策
推定死亡の誤判定人間の運用手順が挟まり孤立に見える処理を誤って廃止段階的停止+影響観察。問題発生時は即座に復帰
低頻度・不可欠処理の見落とし年次料金改定・容量市場年間処理・災害時縮退系を休眠と誤認実行契機の有無で救済。観測期間を延長して確度向上
ハブ変更の広範な波及RYOKIN/KEIYAKU/ESB等の変更が全体に波及影響シミュレーションで事前把握。Wrapで段階的に隔離
COBOL要員の枯渇モダナイズ着手前に対応要員が不在化AI解析による読解・変換で要員依存を低減。優先度を上げる
制度改正の割り込み移行中に料金/インバランス等の制度改正が発生並行稼働構成で旧系統を維持しつつ、新系統へ段階移行

レジリエンス — 「切る話」と「守る話」を分ける

本レポートの提言は「削減」に力点があるが、電力事業では**削減と同じ重みで「守る」**を語る必要がある。両者を混同すると、守るべき系統に削減の論理を持ち込む事故が起きる。

区分対象やること
切る(削減)推定死亡・休眠(請求系A・共通基盤に偏在)Retireで管理対象を圧縮し、見通しを改善
守る(堅牢化)需給・給電(C)、停電管理(TD)依存可視化・冗長化・監視強化で障害波及を縮小

とりわけ災害・広域停電時に稼働する縮退運用系や停電管理(TD)は、平常時の実行ログに現れにくい。これらを死活採点だけで判断せず、「災害時にしか動かないが不可欠」という電力特有の性質を織り込んで救済する。レジリエンス投資は削減の逆方向だが、削減で生まれた原資と人材の余裕を、ここに再配分するのが本筋である。

体制

役割担当内容
プロジェクトマネジメントdele全体推進・未来明るく電力との窓口
AI解析・技術リードdele分身環境の運用・依存グラフ解析・改善提案
データ分析dele死活採点・ヒートマップ作成・定量評価
事業判断未来明るく電力 経営層切除順序・投資の最終意思決定
IT部門連携未来明るく電力 情報システム部門資産提供・現場確認・運用面の調整

経営への提言(まとめ)

  1. 確度の高い推定死亡46本から、段階的停止で安全に切る(Phase 0)

  2. 復元199本問題の根治として、構成管理(正本の一元化)を導入する(Phase 0)

  3. 全社スクリーニングでヒートマップを作り、9月に「どこから切るか」の材料を、10月に意思決定を揃える(Phase 1)

  4. 需給・給電(C)は削減ではなく堅牢化。守るべき場所に投資する

  5. 料金CIS中核のCOBOLは、要員枯渇が深刻化する前にモダナイズ方針を固める(Phase 2)


付録

A. 採点集計の詳細

領域別の採点内訳(再掲)。すべて2026年7月4日時点の推定。

領域採点本数推定現役推定休眠推定死亡非稼働(休眠+死亡)推定非稼働率
A 料金・顧客情報(CIS)1549040246441.6%
B 送配電設備管理986324113535.7%
C 需給運用・給電53521011.9%
D 電力取引・託送5241741121.2%
共通 全社基盤40231071742.5%
合計397269824612832.2%

B. 依存構造の主要指標

指標
依存グラフ(実体総数)596本
うち ソース提供397本(66.6%)
うち 呼び出し痕跡から復元199本(33.4%)
依存エッジ389本
死活採点対象397本
機能仕様書246点
証拠期間(実行ログ)2026年4〜5月
評価時点2026年7月4日

C. 判定ロジックの前提

判定は机上のリスト突合ではなく、以下の前提のもとで実施した。

  • 提供ソース・依存の手がかりをもとに、本番に触れない分身環境をdele側で再現
  • 仕様書欠落等の欠損情報は、AIによるソースコード解析で依存グラフ上に補完(復元199本)
  • 2026年4〜5月の実行ログと突き合わせ、依存グラフ(596本・389エッジ)を構築
  • ソース提供397本を、5証拠100点満点で採点し3分類

本レポートの数字・判定は、以下のツールページで1本単位まで掘り下げられる。

全社システム資産マップ

4領域+共通の把握状況・診断ジャーニー・ロードマップを一望する俯瞰ページ

プログラム別分析

採点内訳・依存関係・仕様書プレビューを1本ずつ確認

削減候補リスト

推定死亡・休眠・重複を横断した削減候補とCSV出力

影響シミュレーション

テーブル/プログラム変更時の影響範囲を依存グラフで可視化

領域ヒートマップ

削減可能率×リスクで領域を俯瞰。全社スクリーニングの成果物

ロードマップ

処置方針別・領域別の実行計画と意思決定タイムライン

分類ごとの判定基準は次の通り。

分類判定基準主に用いたデータ
推定現役(269本)合計50点以上。実データ・つながり・実行契機がそろう実行ログ、依存グラフ、CRUD、仕様書
推定休眠(82本)合計20〜49点。つながりはあるが稼働証跡が乏しい実行ログ、依存グラフ、実行契機
推定死亡(46本)合計20点未満。孤立・空・重複旧版・実行ログ無ヒットが重なる依存グラフ、CRUD、内容ハッシュ照合

D. 判定の確度と次フェーズでの確認事項

  • 推定死亡は静的解析・実行ログ突合上の確度が高いが、プログラム間に人間の運用手順が挟まる「切れ目」により、依存グラフ上で孤立して見えるケースがありうる
  • そのため、廃止は「即時削除」ではなく「段階的停止+影響観察」方式で実施し、問題があれば即座に復帰できる状態を保つ
  • 推定休眠は実行ログとの突合を継続し、次フェーズで確度を高めたうえで段階的に整理する
  • 年次・制度改正時・災害時にしか動かない「低頻度だが不可欠」な処理は、実行契機(スケジューラ/JCL登録)の有無で救済し、機械的に休眠・死亡と断じない

E. 処置方針(Disposition)の判断基準・詳細

第6章の5分類を、判断基準と進め方の観点で詳述する。

処置着手条件進め方逆戻り手段
Retire(廃止)推定死亡。孤立・空・重複旧版・実行ログ無ヒットが重なる参照を切る→影響観察→廃止確定段階的停止のため即復帰可能
Keep(現状維持/堅牢化)安定稼働・停止リスク高・変化要求少監視・冗長化・依存整理で「止まらなさ」を強化変更しないため逆戻り不要
Wrap(包む)中身は不変でI/Fだけ近代化したいラッパー/API層を前段に設置ラッパー撤去で旧I/Fへ
Refactor(改善)構造的課題(重複・命名不整合)の是正ロジック不変のまま整理。差分検証バージョン管理で巻き戻し
Modernize(刷新)変化頻度高・技術リスク高・削減効果大並行稼働→差分検証→段階切替ルーティングで旧系統へ即時切替

F. 全社スクリーニング(第2クール)の進め方

領域A〜Dで確立した装置(分身環境・依存グラフ・5証拠採点)を、そのまま他領域へ横展開する2段階アプローチ。

Step 1

簡易スクリーニング(血液検査相当・領域単位)

ソース受領 + AI静的解析(依存グラフ生成) / 本数・世代構成・依存度の定量把握 / 推定死亡/休眠候補の自動検出→切れそうな領域の特定

Step 2

精密採点(A〜B同等・異常が出た領域に絞る)

5証拠100点満点の死活採点 / 処置方針(Retire/Keep/Wrap/Refactor/Modernize)のドラフト / 切除順序の提案

Step 3

経営判断材料の提示

領域ごとの削減可能率 × リスクレベル(ヒートマップ) / 推奨切除順序 / 概算の工数・期間

2回目以降は装置が揃った状態から始められるため、初回より短期・低コスト・高精度で進む。

G. カバレッジ

判定の前提となる提供資産のカバレッジ(ソース提供66.6%/AI復元33.4%、実行ログの証拠期間、領域別非稼働率等)は、本サイトの全社システム資産マップおよびプログラム別分析を参照。プログラム1本ごとの採点内訳・依存関係・仕様書プレビューは各プログラム詳細ページで確認できる。


結び

本件は、単なる老朽化対応ではない。発送電分離・容量市場/需給調整市場・インバランス制度・スマートメーター・レジリエンス強化が同時進行するいま、限られた経営資源を制度対応・事業継続・成長領域へ再配分するための、経営アジェンダである。

止められない領域(需給・給電)は、ちゃんと生きている。だからこそ、その健全性を守りながら、レガシー請求系と塩漬け基盤に眠る約1/3の削減余地から、証拠に基づいて安全に切っていく——それが本レポートの提言である。


本レポートは、未来明るく電力 基幹システム 資産評価PoCの成果として、dele が作成したものです。判定はすべて2026年7月4日時点・証拠期間(2026年4〜5月)の範囲内での推定であり、稼働の確証ではありません。実態・数値・認識に相違があれば、ご指摘ください。現場・ログで確認された事実は「現場確認」として本サイトに継続反映します。

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